2度目の初恋、始めます♡

4話 入賞

 私が水に飛び込むと、勢いよく水飛沫が立つ。
 
 水が私の全身を包み込む。
 
 前へ、前へ。
 
 ターン、息継ぎ、ストローク。
 
 最後の50メートルになると辛いとか、息苦しいとか、腕が重いとか、いろんな感情が出てくるけど、仲間のためだと思うと、体が自然に動いていく。
 
 腕を強くかき、水をかき分ける。
 
 ラストの一歩を出し切ったとき、肺と、腕が、悲鳴をあげたかのように感じる。
 
 プールサイドに上がると、タイムが表示される。

「タイム、2分6秒34!」

 山岸先生が笑顔で拍手してくれる。

 結菜も、優心先輩も、幹太先輩も駆け寄ってきて、「ナイス!」と声をかけてくれる。
 
 私は、チラッと観客席の方を見る。

  ──(多分)蒼が、こっちを見てくれている。
 
 短く手を振ると、彼は笑って返してくれた。
 
「神崎くん?」

「うん」
 
 結菜は「いいねえ〜」、と肘で突いてくる。
 
 私は「そんなんじゃないよ〜」と照れながら言う。

 全競技が終了し、会場のざわめきが少し落ち着いたころ。
 
 スピーカーから、アナウンスが響いた。

「これより、結果発表を行います」

 私は待機用ベンチに座ったまま、無意識に背筋を伸ばす。

(入賞してなかったらどうしよう。あれだけ頑張って無理だったら心折れそう……)
 
 アナウンスは続く。
 
「混合メドレーリレーから発表いたします」

 心臓がうるさいほどに音を立てて鳴った。
 
「3位、四葉中学」

 ドクン。

「2位、釜下中学」

 ドクン。ドクン。

 後ろでは何位かに入賞した学校の人がキャアキャアと騒ぎ、喜んでいる。

 泣いている人もいる。

 でも、私はその人たちの声よりも、よっぽど自分の心臓の音の方がうるさく感じた。
 
 そして、一位の発表になった。
 
「1位、──三橋中学」
 
 一瞬、驚きからか、頭が真っ白になる。
 
 すると、結菜が「ひより!1位だよ!」と言いながら私を左右へブンブン揺らす。
 
 優心先輩と幹太先輩も、驚いたように目を見開いてから、すぐに笑った。

「該当校の選手は、プールサイドにお降りください。繰り返します。3位、四葉中学……」
 
 その言葉で、ようやく分かった。
 
 私達は一位だったんだ。
 
 私たちは四人並んで階段を下り、プールサイドに立つ。
 
 先輩と、結菜と、つないだ一本のレース。
 その成果が今日、解き放たれたのだ。

「1位おめでとう」

 水泳大会委員会の偉い人が賞状を渡す。

 賞状は優心先輩が受け取った。

「ありがとうございます」
 
 その時の先輩の目には涙が浮かんでいた。
 
「続きまして、男子100M背泳ぎの発表をいたします。3位、有蘭中学・斎藤修哉。2位、愛若中学・鎌田千尋。1位──三橋中学・堀谷優心」

 ……⁉︎

 まただ。
 
 また三橋中の名前、そして優心先輩の名前が呼ばれる。
 
 先輩は「またあ⁉︎」と言いながら、でも嬉しそうに幹太先輩にさっきの賞状を渡して、せっかく登った待機席までの階段をもう1度下ってプールサイドへ戻って行った。 
 
 私達はゆっくり、席に帰る。

 幹太先輩は100M平泳ぎ、結菜は100Mバタフライにも出ていたけど、入賞にはならなかった。
 
 続けて、アナウンスが流れる。

「続きまして、女子200Mフリーの発表をいたします。3位、愛若中学・川崎祐奈。2位──三橋中学・桜庭ひより。1位……」
 
 名前を呼ばれ、胸が大きく鳴った。

「ひより!すごいじゃん!2位だよ!」

 結菜はまた私を大きく揺さぶる。
 
 2位、かあ。

 ここまできたら1位を取りたかったなあ。
 
 私はいろんな感情を抱えながら、1人、もう一度プールサイドへ降りた。

「二位おめでとう。さっきはメドレーで入賞していたね。これからも頑張ってください」
 
 偉い人にそう声をかけてもらえた。
 
「ありがとうございます」

 
 中学に入って初めての夏の大会。
 私の新しい一歩は、こうして確かに始まったのだ。

 私は一歩一歩、順調に進めている。そう確信した。

 着替えた後、会場の入り口に行くと、蒼が待っていてくれた。

「蒼!お待たせ!」

「あ、ひより。お疲れ様。入賞おめでとう」

「ふふっ、ありがとう」

 照れながら言う。

 ん?

 前と少し何かが違うなあ。

 蒼を見ると、そう感じたので聞いてみた。

「蒼、髪切った?」

「うん、切ったよ。よく気づいたね」

 私は小さい頃からなぜか人の変化に敏感なのだ。

 髪型を変えてみたとか、前髪を切ったとか、髪質改善をしたとか。
 
 自分の変化には気づいてもらえないんだけどね。

「ひより、親は?」

「さっきまでお父さんがいたんだけど、もう帰ったよ」

「お母さんは?」

「仕事だよ」

 蒼は、そっか、と声に出した。

 私のお母さんはヘアサロン会社の社長をしている。
 まあ、小さな会社だし、お金持ちじゃないけど。

 お父さんはその会社の事務をしている。

 だから、お父さんしか大会は来れないんだ。
 
「ねえ、どっか行こう。お腹減った!蒼は何か食べたの?」

「ううん、なんも食べてない。俺も腹減ったなあ。近くでお店探すか」

 蒼はそういうとスマホで検索を始めた。

 蒼はしばらくスマホをいじったあと、顔を上げた。
 
「駅の方に何軒かお店があるみたい。行ってみる?」

「うん!行きたい!」
 
 私は即答してしまう。

 はしたなかった、かな。
 
 二人で会場を出て、少しだけ歩く。
 
 今は13時48分。

 少し遅いが、まだお昼時だ。

 混んでたらやだなあ、そう考えながら歩く。
 
「大会、どうだった?」
 
 蒼が聞いてきた。

「うーん……緊張したけど、楽しかった」

「楽しかった?」

「うん。辛かったけど、それ以上に楽しかった。先輩とか、結菜と一緒に賞も取れたし」
 
 そう答えると、蒼は「そっか」と短く笑った。

 駅前に着くと、確かに何軒かお店が並んでいる。

 ファミレスから少し高そうなお店まで。

 私達はファミレスに入り、それぞれ好きなものを注文した。

 私はカツカレーとミニサラダのセット、蒼は唐揚げ定食だ。
 
 空いていたからかすぐにロボットが運んできてくれる。
 
「いただきます」
 
 手を合わせたその時、お腹が「ギュルギュルギュル」と大きな音をたてて鳴った。

 は、恥ずかしいっ。
 
「……聞こえた?」
 
「聞こえた」

「忘れて」

「無理」

 二人で小さく笑い合った。
 
 私が5個のカツのうち2つ目を口に運んだ時、蒼が言った。

「カツ、1個ちょうだい」

「いいよ。じゃあ、私に唐揚げ1個ちょうだい」

「いいよ」
 
 そうしてお互いのお皿にそれぞれの揚げ物を置く。
 
「なあ」
 
 蒼がお箸を置いて、遠慮がちに言った。

「次の大会も、見に行っていい?」

「……うん」

 私はうなずく。

「蒼が来てくれたら嬉しい」
 
 蒼は一瞬、「え?」と驚いた顔をして、それから笑った。
 
「じゃあ、ずっと応援する」

 その言葉が、胸にまっすぐ届く。

「ありがとう」

 私はまた次も頑張ろうと思えた。

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「ただいま〜」

 私が家に帰ったのは15時前だった。

「ああ、ひより。おかえり」

 おとうさんがリビングでいう。

「ただいま」

「ひより、入賞おめでとう。今日は夜、ひよりの好きな‘‘グローリア’’でお祝いするからな」

 お父さんは笑顔で言った。

 グローリアとは私が好きなイタリア料理のお店だ。

 こういうお祝いの時は連れて行ってくれる。

「ありがとう」

 私はそういうと自室に戻って行った。

 19時の予約を取ったらしい。

 それまでにシャワーを浴びようと、部屋で今日の片付けをした。

 18時過ぎ。
 シャワーを浴び、ドライヤーで髪を乾かす。

 一応、グローリアは高級店でドレスコードが必要。
 だからネイビーのロングドレスを着て、髪型も整える。

「準備できたかー?」

 19時の15分前。

 私の部屋の前までお父さんが来て言った。

「うん」

 私はバッグを持って部屋を出た。


 私達がお店に着くと、お母さんはもう席についていた。

「あ、ひより〜!水泳、おめでとう」

「ありがとう!」

「リレーでも1人でも入賞したんだって?すごいじゃない!さすが私の子だわ」

 実は私のお母さんは、元水泳選手。

 ──といっても五輪に出てるようなんじゃなかったけど。
 
 大手の実業チームで活躍していた。
 
 そのこともあり小さい頃から水泳をやってきたのだ。

「ふふっ、よかった」

「じゃあ、乾杯するか」

 お父さんが言った。

「そうね」

 お母さんはワインの入ったグラスを構える。

 私も遅れを取らずにワインと同じぶどうを使ったジュースのグラスを構えた。

 中学初めの大会は大成功を収めた。
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