台本通りの恋はしない!―仕組まれた恋リアで、本気で恋しちゃダメですか?―


8月25日。水曜日。
9:00。

「しーおんくん♡2ショットタイム、いーい?」

ミッション前の隙間時間。
ダイニングテーブルで大和や彩加と談笑している紫苑のところに、当たり前のように突っ込んでいった。

「またぁ!?昨日も2回くらい誘ってたよね?乱発しすぎじゃない!?」

紫苑が返事をする前に、彩加が立ち上がって制止する。

ソファでテレビを見ていたひよりと陸、キッチンでお茶を淹れていた美玲と爽真もこっちを向いた。

「えー?いいじゃない。回数制限なんてないしー。
それにっ最終日まであと6日しかないんだよぉ?できるアピールはぜーんぶしたほうがいいと思わなぁい?」

顎に人差し指を当てながら、彩加に向かってきゅるっと上目遣いをする。

言い返せないけど釈然としないと、彩加が苦虫を噛み潰したような顔になった時、紫苑が立ち上がった。

「いいよ。どこに行く?」

「んー。じゃあ今日はぁ、テラスにしようかな♡」

青空と海が広がる大窓を指差す。
紫苑はあっさりと頷くと、連れ立ってテラスに出て行った。

「なんか……紫苑くんも普通に受け入れちゃってない?」

「昨日2回も誘われたせいで、感覚が麻痺ったのかもしれないッスよ!」

「あー、それだ」

ガラス戸一枚隔てて、みんなに背を向けて並ぶ私と紫苑を呆然と見つめながら、ダイニングテーブルとソファの距離で彩加と陸がそう言った。


――ティーカップに紅茶を注ぐ爽真の手が、私が紫苑を誘った時からずっと止まっている。

ぼうっと見つめる一点は、2人きりの空間になったテラスを見ないように逆方向に逃げた。

微妙に傾いたティーポットからは、濃くなりすぎた紅茶がぽたぽたと注ぎ口を伝い落ちていく。

「爽真、危ない。火傷するよ」


作業台越しにそれを見つけた大和が、落ち着いた声で指摘する。

先にハッとした美玲が、慌てて滴る紅茶の下へ布巾を差し込んだ。

「熱……っ」

その瞬間、熱い雫が美玲の指先を打った。

「っ、悪い」

我に返った爽真が咄嗟にポットを置いて、その手を取る。
素早く水道のバーを上げて、流れ落ちる水の中に美玲の指を突っ込ませた。

「……大丈夫か?」

「うん……ちょっとびっくりしたけど、多分平気……」

火傷に当たる水の冷たさとヒリつきよりも、握られた手に美玲の意識は集中する。

繋がったところへ落ちる、伏した視線と赤い頬。

私の背中越しに起こっていた一部始終は――
後日、爽真と美玲の関係を強化するためのショート動画になった。
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