台本通りの恋はしない!―仕組まれた恋リアで、本気で恋しちゃダメですか?―
「……っ、」
でも言えないから、目を逸らす。
座面に置いた紫苑の手が深く沈んで、腕を曲げた分だけ感情を燻らせた作り笑顔が近づいた。
「ここまでストーリーを改変したならさ。
俺が台本をぶち壊して、瑠奈ちゃんを選ぶのもアリだよね。
“瑠奈ちゃん”としてもハッピーエンド。どう?悪くない話じゃない?」
見開いたままの私の目が、ずっと瞬きを忘れている。
そのくらい紫苑の言葉は鮮烈で、切実で、真に迫るものがあった。
ドクンドクンと、胸が甘くも辛くも鳴り響く。
永遠にも感じる間。
息をするまでに、どのくらい時間がかかっただろう?
でも、一度吸い込んでしまえば驚くほど冷静になれて、ふっと表情が落ち着いた。
「しないよ、紫苑は」
エアコンで冷えた空間に混ざる、静かな声。
「一途な“紫苑”像を崩してまで台本を壊すなんてこと、成宮紫苑は絶対にしない」
暗く翳っていた紫苑の目が、大きく見開いて止まる。
その瞳の中に映る私の顔は、声音に違わず静かな真顔だった。
「紫苑はズルいことはするけど、カメラの前で演技を崩すことも台本からの逸脱も絶対にしなかった。
だから私は紫苑のプロ意識だけは信頼してるし、尊敬してる。そうじゃなきゃ、協力者には選んでない」
性格は黒いし、策士だし、意地悪だけど。
プライベートでさえ“爽やか王子の成宮紫苑”を演出し続けている彼に、私はまだまだ及ばない。