台本通りの恋はしない!―仕組まれた恋リアで、本気で恋しちゃダメですか?―
「……最終日までさ。私、やりきれないから。
でも告白の返事だけは、ちゃんとしときたいなって思って」
「だから呼んだんだよね」と、紫苑の様子を見ながら話しきってしまう。
苦しそうに眉を寄せる紫苑はずっと海を見たまま、しばらく何も答えない。
話を続けてもいいのだろうかと迷って立ち止まっていると、紫苑が俯いて、深呼吸して――
手を体の横へ戻して、私にまっすぐ向き合った。
「はい、いいよ。話して」
ほんの少し胸を張る立ち姿に、少し面食らう。
あまりに堂々として見えるから、こっちが緊張してしまった。
「あ…えっと……まずは、その……
好きになってくれて、ありがとう……」
本心ではあるけど、形式的でぎこちない。
紫苑もそれを察したからか、クッと可笑しそうに笑みを漏らした。
緊張と気まずさに揺らぐ私と、全部わかってるみたいに切なそうな顔で笑う紫苑。
胸が痛い。
けれどゆっくりと迫る波の音と、背中を吹き抜けたしょっぱい海風に煽られて、私の背筋も伸びた気がした。
「でも、ごめん。紫苑の気持ちには応えられない。
私には、他に好きな人がいるから」
私の体を抜けていったぬるい海風が、紫苑に正面からそよぐ。
ほんの僅かに蜂蜜色の瞳が見開いて揺らいだ気がしたけど、紫苑の微笑みは穏やかなままだった。
「――俺、振られるどころか、自分から好きになったのも初めてなんだよね」
「――え?」
紫苑はポケットに指をかけて、口元の笑みを深める。
面食らってる私を見て、呆れたように片眉を下げた。
「けど――……うん、」
何かを噛み締めるように、ほんの数秒目を伏せる。
次に私を見る目は、今までになく優しかった。
「ありがとう、香月さん。
ちゃんと返事、聞けてよかった」
目を細くして、口を開ける。
年齢よりちょっと幼い、紫苑の本当の笑い方。
胸が苦しいのは、どういう感情からくるものなんだろう?
罪悪感はもちろんある。
けど、それだけでもない気がする。
早朝なのにきちんと整った蜂蜜色の髪が、朝日に透けてキラキラと光る。
また目を伏せた紫苑が、大人みたいな表情に戻った。