台本通りの恋はしない!―仕組まれた恋リアで、本気で恋しちゃダメですか?―
「――やっぱ面白いなぁ、香月さん」
返事を待っていると、下を向いた紫苑がくくっと肩を揺らす。
長い人差し指で目尻を拭って、笑いを噛み殺しながら私を見た。
「困ったな。こんなの、ますます好きになっちゃうよ」
「!」
甘い笑顔にビクッと胸が跳ねて、危うく“瑠奈”を落っことしそうになる。
ひとしきり笑った紫苑が、一息ついて首を振った。
「なんてね、冗談。」
瞬きする間に、紫苑はまた仮面を被る。
「……ごめんね。俺には好きな人がいるから。
“瑠奈ちゃん”とは、付き合えない」
申し訳なさそうなのに、毅然と立つ振る舞いは、爽やか王子の“紫苑”そのもの。
「――……」
“瑠奈”なら一回断られたくらいじゃまだ食い下がりそうだけど……最後の告白くらいは、綺麗に散ったほうが見栄えがいい。
「……しょうがないなぁ。諦めてあげる!」
ふわりと黒髪を揺らして、ムッとした顔をして見せる。
そしたら、台本の最後の一ページを捲ったような気持ちになって、つんと胸がいっぱいになった。
優しい王子様が、眉を下げてちょっと困ったように肩を竦めている。
だから最後に、言いたくなった。
「でも……出会ってくれてありがとー。紫苑くん」
紫苑にそっと手を差し出す。
瞬間、紫苑の仮面が一瞬剥がれたような気がして、でも、気付けばまた柔らかい表情に戻っている。
「……うん、俺こそ。ありがとうね」
ゆっくりと伸びてきた男子の割に華奢な手が、私の手をしっかりと握る。
――はい、カット。
そんな言葉は、聞こえてはこないのだけど。
ありがとう、いつかまた。
カメラの前で会えるように、お互い頑張ろうねって――
言葉にはしなかったけど多分そう思い合って、最後まで格好つけで完璧な紫苑との台本通りの恋は、幕を閉じた。
「……じゃあね、香月さん。
あとのことは俺に任せて」
「……うん。ほんと、ありがとう。紫苑」
「ううん。……俺たちの今後のため、だからね」
別れ際は、本当にあっさりとしていて。
私に背を向けて歩き出す紫苑からは笑顔も消えて、暗い無表情で意思を固めたように歩き続けていたことを――
これからのことにいっぱいいっぱいだった私は、知る由もなかった。