台本通りの恋はしない!―仕組まれた恋リアで、本気で恋しちゃダメですか?―
オンボロ事務所に続く廃れた路地裏を、暑さに溶けそうになりながらも勇んで歩く。

9月ってもう秋のイメージなのに、昼間は全然真夏のままだ。


「戻りましたぁ――!みたらーいっお茶ー!」


水色のワンピースの裾を豪快にはためかせて体に風を送りながら、社長のいる事務フロアの入り口で元気よく叫ぶ。

狭いオフィスには明らかにオーバースペックの大声に、給湯室から迷惑そうな顔をした御手洗が顔を覗かせた。

「大声で人を呼びつけるのをやめなさいと、何度言えばわかるんですか……。
それからスカート。はしたないからやめなさい」

言いつつ、氷の入った麦茶のグラスをトレイに乗せて持ってくる。
愛想笑いで誤魔化してお茶を一気飲みすると、オーディション帰りで火照った体がひやりと冷えた気がした。

「ったく、うるせぇなぁ。出戻り娘!
出戻ってきてから輪をかけてうるせぇ」

「出戻りって言わないでって何度言えばわかるんですか。タヌキ社長」

社長デスクにどっかりと座って、競馬新聞なんて読んでいる不届なタヌキ野郎に毅然とした視線を送る。


私がなんでこんなに社長に対してトゲトゲしているかというと――……
事務所の倒産寸前が、7割嘘だったからだ。


「あ゛ー?生意気言ってんじゃねぇぞ。A級バックラー」

「誰のせいでこんなことになったと思ってんですか。
あなたが騙して恋リアにぶち込んだからでしょ!一級詐欺師!」


――事務所が火の車なのは本当。けど、首の皮一枚は繋がって経営はできる状態。

そんな時舞い込んだ、アオバケというでかい仕事。

“女優のやる仕事じゃない” “本人役の悪女なんてやれるか”と駄々をこねるであろう私を見越して、“倒産寸前”で逃げ道を塞いだらしい。

アオバケに出る前から、私は社長の筋書きの上にいたってことだ。
ふざけるのも大概にしてほしい。


――そして御手洗も共犯。もう誰も信じられない。
だから顎で使ってる。無期懲役だ。

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