ORANGE×BOY
静まり返った青空の下。
一人ベンチの前に立ち尽くしていた綾瀬先輩は、彼女の温もりが微かに残る自分の掌をじっと見つめ、それから小さく、ふっと息を吐き出した。
すると、そのタイミングを見計らったかのように、先ほど「移動教室がある」と言って出ていったはずの海里たちが、ニヤニヤとしたニヤけた顔を隠しもしないで、ドアの隙間からゆっくりと屋上へ戻ってきた。
「れーん。いやいや、見せつけてくれんじゃん。直球ストレートすぎて、マジでかっけぇなぁー」
「おいおい、聞いてるこっちが恥ずかしくなったわ! いやーん、蓮、私惚れちゃう!」
凌久がわざとらしく自分の胸を押さえて身悶えし、爽がそれをバシバシと叩いて爆笑している。
どうやら、ドアの向こうで一部始終をしっかりと盗み聞きしていたらしい。
「で、実際どーすんの?完全にフラれてたっぽいけど」
海里がポケットに手を突っ込みながら歩み寄り、覗き込むように尋ねた。
「んー、これは今後アリなの?」
「まぁ、ちょっとはアリなんじゃね?」
「けどさ、だいぶ拗らせてるよなぁ、咲良ちんは」
「だよなぁー。あの頑なな感じ、咲良ぴは一筋縄じゃいかなそう」
海里たちが口々に好き勝手な感想を言い合う中、蓮は呆れたように前髪を掻き上げ、彼らに向かって鋭い、けれどどこか楽しげなツッコミを入れた。
「おいおい。お前ら、さっきから人の恋愛をネタにして好き勝手うるせーよ――っていうか、なんでお前ら、会ったばっかなのに勝手にあだ名で呼んでんの?」
「いいじゃん、親しみを込めてさ!」
凌久と爽がケラケラと笑う中、海里だけはニヤニヤとした笑みを引っ込め、少しだけ真面目な顔をして蓮の目を真っ直ぐに見つめた。
「まぁ、冗談は置いといてさ。――蓮は、あの子を離す気ないんでしょ?」
その問いかけに、屋上を吹き抜ける風が、蓮の夕陽色の髪を優しく揺らした。
蓮は、咲良が走り去っていったあの鉄の扉をもう一度見つめ、それから今までで一番優しくて、どこまでも迷いのない太陽のような笑顔をにかっと咲かせた。
「まぁな。俺、こう見えて一途だかんね」
その迷いのない言葉は、澄み切った青空へと真っ直ぐに吸い込まれていく。
どれだけ拒絶されても、どれだけ冷たく突き放されても、彼女の心の奥にある本当の優しさを知っているから。
学園一の不良の本気の恋は、この爽やかな初夏の光の中で、もう二度と止まらないほどに加速し始めていた。