私だけに見せる、彼の独占欲。

第7話 「名前」

あの日から、私たちは付き合っている。

まだ誰も知らない。
職場では、これまで通り。

「大丈夫か、新人」

「はい、主任」

でも――

その奥に、秘密がある。

主任の名前は、俊(しゅん)。

心の中で呼ぶだけで、
胸が熱くなる。

好きな人の名前って、
どうしてこんなに特別なんだろう。

ある日の帰り道。

人目を避けて、少し遠回り。

並んで歩く距離は、まだぎこちない。

手をつなぐのも、タイミングを探ってる感じ。

「なあ」

主任がぽつりと言う。

その声のトーンが、職場と違う。

「主任って呼ばれるの、なんか変じゃない?
二人のときは、名前で呼んでほしいな」

どき。

「そ、そうですか?」

「うん」

少し沈黙。

「……ゆうって呼んでいい?」

時間が止まる。

え。

今、何て言った?

「え、あの、はい、もちろん……」

声が裏返る。

主任が小さく笑う。

「そんなに緊張する?」

「しますよ!」

即答。

主任は立ち止まって、私を見る。

その目が、まっすぐで、優しくて。

「ゆう」

――。

たった二文字なのに。

私の名前なのに。

主任の声で言われると、
まるで違うものみたい。

胸の真ん中に、すとんと落ちる。

「……もう一回」

思わず言ってしまう。

主任が少し照れた顔をする。

「贅沢だな」

でも。

「ゆう」

今度は、もっと柔らかく。

息が止まる。

「じゃあさ」

主任が少しだけ悪戯っぽく言う。

「俺のことも、名前で呼んでみて?」

「えっ」

無理。

ハードル高すぎる。

「しゅ、主任……」

「それ、違うでしょ。」

低く笑う。

「俊、でしょ?」

顔が熱い。

心臓がうるさい。

でも、逃げたくない。

小さく息を吸って。

「……俊」

一瞬の沈黙。

俊の表情が、変わる。

「やば」

「な、何がですか」

「破壊力ある」

ぐっと距離が近づく。

でも触れない。

「ゆうに名前で呼ばれるの、想像以上」

その声が少し低くて、甘い。

「二人のときだけでいいから、そう呼んで」

その言い方が、やさしいのに少しだけ特別で。

「職場では無理ですよ」

「分かってる」

でも、と俊は続ける。

「……ちゃんと覚えといて」

その一言が、少しだけずるい。

その約束が、秘密みたいで嬉しい。

俊がそっと手を差し出す。

今度は迷わず、握る。

指と指が絡む。

これは、私の現実。

俊が小さく言う。

「ゆう」

胸の奥が、静かに満ちていく。

ドキドキは、止まらない。

でもきっと――

このドキドキが、恋なんだ。
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