私だけに見せる、彼の独占欲。

第9話 「映画のあとで」

土曜日。

待ち合わせ場所にいた俊を見て、
ちょっと固まる。

あれ、なんか違う。

スーツじゃない。

ラフなシャツに、少し前髪を下ろしてる。

それだけなのに、なんかずるい。

「……どうした?」

「い、いえ……」

見慣れてるはずなのに、全然慣れない。

むしろ、余計に意識する。

並んで歩きながら、俊がふと口を開く。

「いきなり俺の部屋だと緊張するだろ?」

俊がさらっと言う。

「だから、
まずは映画でくっつきながら観たいなって」

……。

な、なんでそんなことを照れずに言えるの。

私はポップコーンを握りしめたまま固まる。

ペアシート。

普通の席より少し広くて、仕切りも低い。

肩と肩が、最初から触れている距離。

暗くなった瞬間、心臓の音が大きくなる。

映画の内容、正直あんまり入ってこない。

俊の体温のほうが気になる。

途中、さりげなく俊の腕が回る。

「……緊張してる?」

耳元で小さく。

「してません」

嘘。

「鼓動うるさい」

低く笑う。

指がそっと絡む。

大きな手。

優しいけど、確かに“男の人”の手。

スクリーンの光が横顔を照らす。

俊はちゃんと映画を見てるふうなのに、
ときどき私を見てるの、分かる。

エンドロール。

明るくなる館内。

名残惜しくて、少し離れがたい。

「楽しかった?」

「はい……」

声が小さい。

「映画?」

意地悪。

「……俊と、が」

一瞬、俊が止まる。

「破壊力」

「え?」

「それ反則」

そう言って、軽く頭を撫でる。

そして。

「こっち」

自然に歩き出す。

駅とは逆方向。

「どこ行くの?」

胸が少し早くなる。

俊は振り返らずに言う。

「俺んち」

足が止まりそうになる。

現実が、急に近づく。

さっきまでの映画みたいな空気が、
少し変わる。

「……本当に?」

「うん」

立ち止まって、私を見る。

真面目な目。

「無理なら言えよ」

その一言で、怖さが少し消える。

選べるって分かるから。

私は少しだけ息を吸う。

「……行きたい」

俊の表情が、ゆっくり柔らぐ。

「ありがとう」

その言い方が優しくて、胸が温かくなる。

歩きながら、俊が小さく言う。

「何もしないとは言わないけど」

どき。

「嫌なことは絶対しない」

その真っ直ぐさが、ずるい。

「ゆうが大事だから」

手は、ちゃんと繋がれている。

映画の余韻。

指の温度。

そして、“俺んち”。

もう、
ドキドキが止まらない。

でもそれは、怖いだけじゃなくて――

ちゃんと、好きだから。

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