まだ恋とは呼べない距離で

【番外編】クリスマスケーキ

「んんん……巻けない。くずれちゃう……」

理緒はキッチンで、小さく唸っていた。

クリスマスに向けて、ブッシュドノエルを作りたかった。
けれど、その土台になるロールケーキが、どうしても上手く巻けない。

巻こうとするとひびが入って、クリームがはみ出して、気付けばただの“崩れたケーキ”になってしまった。

――お菓子作り初心者で、ロールケーキは無茶だったかも……。

「理緒、何してるの?」

後ろから声を掛けられ、理緒は肩を揺らした。

「あ……ママ」

母はキッチンを覗き込み、カウンターの上を見て、ふっと笑う。

「お菓子作り? ロールケーキね」

「うん……」

「これは、スポンジが柔らかいうちに巻くのがコツなのよ」

「分かってるんだけど……上手く出来なくて……」

理緒がしょんぼりと肩を落とすと、母は崩れたロールケーキを見ながら苦笑した。

「最初から難しいものに挑戦しすぎなのよ。フルーツもこんなに入れて」

「……はい」

「急にどうしたの? お菓子作りなんて」

理緒は少し視線を逸らした。

「……友達と、一緒に食べようかなって」

「そう」

母はそれ以上追及せず、けれどどこか面白そうに目を細める。

「……でも、本番の前に練習しておきたくて」

「そういう年頃ね」

母は懐かしそうに、小さく笑った。

「ママも、あなたくらいの頃に初めてお菓子作りしたわ」

「ママも?」

「えぇ。1つ上の学年の先輩に憧れて、クッキーを渡したくてね」

「……え」

意外そうに目を丸くすると、母は少し肩をすくめた。

「でも結局、渡せないまま卒業しちゃった」

「そうなんだ……」

「理緒も、憧れの人?」

「!? 違うよママ!」

思わず声が大きくなる。

「友達だってば!」

「あら、そう」

母はくすっと笑った。

「でも、手作りのものを食べてほしいって思うくらい、大切な友達なのね」

理緒は少しだけ黙り込む。

頭に浮かぶのは、図書室で本を読む横顔。
静かな声。
自分の話をちゃんと聞いてくれる、あの空気。

「……うん」

小さく頷く。

「大切な、友達」

理緒はその言葉が本音のような、でも何か違うような、うまく説明できない違和感で、胸がくすぐったくなるのを抑えた。
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