ずっと、言わなかっただけ

神谷家、入居します

〜一ノ瀬ひよりside〜

そうして、私は会社から徒歩でも電車でも約15分の慧の家へ転がり込むことになった。

ただし、期限付きで。

「はい、分かりました。その期間であれば、大丈夫なので。はい、すみませんがよろしくお願いします。」

電話を切ると、慧が私の最後の荷物を運んで階段を登ってきた。

「大家さん、なんだって?」

「これを機に、他にも色んな所を直したいから、半年くらいはみてくれないかって。まあ、半年くらいならいい、、、よね?もしだったら、慣れてきて3ヶ月後とかには、友達ん家に移ることも検討するからっ。」

私は、慧に頼み込んだ。

「、、、。まあ、別にいいけど。そんなことより、お前、、、荷物、多すぎ!」

私は、えへへと言いながら家に入る。

「それにしても、ほんっとに無駄に広い家だよね。しかも、、、」

慧の家は、私の家よりもはるかに綺麗だった。

「意外と、ちゃんとしてるのね。」

私がそう言うと、慧はパシっと頭をはたいた。

「意外と、わ、余計な。まあ、お前の家よりは綺麗な。間違いなく。」

そう、慧は今回のプチ引越しにあたって、家の掃除も手伝ってくれたのだった。

しかも、異動したてで、いつもより何倍も汚ったない家の掃除を、、、。

「でも本当に助かった、ありがとう。何から何まで。」

「別に、大したことしてないけどな。」

慧はそう言いながら、ガランとした1部屋を開けた。

「ここ、余ってるから好きに使って。」

そう言って、荷物を置いてそそくさとダイニングの方へい行ってしまう。

慧に聞くと、ベッドが置いてあるのは元々客室にしようとしてたからとか言っていた。

(お客さんなんて、、、来るのかな?)

そう思いながらも、ありがたく部屋を使わせてもらうために余計なことは言わないようにする。

そういえば、念のため今回のことは家族や友人には連絡しておいた。あと、会社にも。

みんな意外と、何も言わずに

「そうなんだ、近くなるなら良かったね。」

と、あっさりな反応だった。

母親に関しては、

「けいちゃんとなら、安心したわ!あんた、ここんとこ生活もままならなかったでしょ?!だけど、立て直せそうで良かったわあ、お母さんほんっと一安心。あ、そうそうけいちゃんに代わってくれる!?」

「何でよ、慧なんて呼んでも出ないよ!」

「あ、もしもし、お母さんですか?お久しぶりです。ご無沙汰してます。はい、はい、あ、いえいえ(笑)」

と、一通り慧と話をして盛り上がる始末だった。

「そういえば、冷蔵庫の中何もないけど、、、夕飯どうする?」

私が荷物の整理をしてると、後ろから声をかけられた。

「そうだよね、、、急にごめんね本当に。今日はお互いヘトヘトだろうから、デリバリーはどう??」

「まあ、そうだな。そうしよう。何がいい?」

「んー、あ!ねえあれは?小さい頃誕生日の度に食べてた、、、」

「ピザとチキン、な。」

「そうそう!懐かしい〜!!!」


そうして、私たちはその夜ピザとチキンを囲いながら夕飯を一緒に食べることになった。

「なんか、こうしてご飯一緒に食べるの久しぶりだね。」

「確かに。でも、歓迎会とか、会社の仲良いメンツでの飲み会とかは結構やってるよな。」

「そうだね〜。そういえば、あの子元気?営業部の、、、相沢くん?」

「あー、元気だよ。」

私たちは同じ会社の、営業部と総務部。

私はこの春の異動前までは人事部にいたこともあり、情報交換も兼ねて別部署との飲み会も割とあったのだった。

そして、営業部の相沢くんは慧の後輩の一人だ。

なぜか、私のことを気に入ってくれてて、会社でもたまに会えば声をかけてくれるのだった。

そして、私の後輩の小野寺陽菜。陽菜とは、実は高校の時の先輩後輩で、陽菜がこの会社に入ってきた時から、仲良くしていた。陽菜が、相沢くんの同期なのだ。

今回の異動で、唯一心の救いだったのが陽菜と同じ部署になれたことだった。

「で、なんで相沢のこと聞くんだよ。」

少しムッとした顔で聞かれて、私は思わず言う。

「いや、今回こんなことになっちゃって色々思い返しててね。」

「ふーん。」

慧は、興味無さそうだ。

そして、おもむろに紙とペンを取り出した。

「そういえば念のため、一緒に住むにあたってルール決めようぜ。」

「ルール?」

私は、聞き返す。

「そうだ。異性同士で住むし、ましてや幼なじみ。お互いのことは知り尽くしてるが、知り尽くしてるからこそ、決めておかなきゃならないことがあると思う。
そこで、
①勝手に冷蔵庫は使っていい
②風呂は先着順(ただし風呂キャンはしないこと)
③洗濯物はまとめて回す、干す、畳む(気づいた方がやること)
④帰りが遅くなる時は必ず連絡すること(特別なことがない限りはなるべく終電までに帰ること)
⑤部屋に入る時はノックか声掛けをすること(勝手に入らない)
⑥無理はしないこと
これでどうだ?」

「なるほどね。まあ確かに、、、だけど、④と⑥はいったいなんなの。」

「いやまあ、最近帰りが遅いことも知ってるし、終電ギリギリなのも分かってるけど、お前ん家よりは会社からも近くなるから。」

「確かに。なるべく、守るように頑張るわ。」

「じゃあ、これが俺とお前の同棲ルールってことで。」

こうして、私と慧のつかの間の二人暮らしが始まったのだった。

(もちろん、この日の夜は慧様が先に入浴を済ませて、私が洗濯物や食器洗いなどの家事を行いました。)

慣れない天井、慣れない部屋。

だけど、不思議と安心感があった。

疲れもあったのか、私は深い眠りへと落ちていった。
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