捨てられ才女はどうやら繁栄の切り札だったようです~新生活を謳歌していたら、記憶チートで追放先が大発展していました~
第1章 王妃は側妃へ落とされる
1.突然、側妃へ落とされて
「王妃様、大変です!」
「また?」
王宮の一室、うららかな春の日差しあふれる寝室を大臣の金切声が切り裂く。
私―――コーデリア・シフォンは即座に読みかけの本を閉じた。
至福の読書時間を邪魔され、斜めになりそうなご機嫌をなんとか維持する。
私が出迎えたのは片眼鏡でくすんだ金髪の宰相オルドスであった。
彼は悪くない。悪いのは私の夫の国王ディルダだ。
常に、いつも。悪いのは私の夫だった。
私は努めて優しい声を出して呼びかける。
「何があったのかしら?」
「新しいご夫人を増やすと。今度は十六歳の子爵令嬢とのことです」
「はぁ? 正気……?」
「結婚式もすぐ執り行いたいとのことで」
こめかみを指先でぐりぐりと押し込み、なんとか気を取り直す。
私の夫であるディルダはラッセリア公国の第二公子として生まれた。
それが兄である第一子が魔獣による不慮の死を迎えた後は、王の座も約束されたものになっていた。というのも、ラッセリア公国はさほど大きくはない国だからだ。
人口八十万人、遠縁を含めても王族が二十人いない。
兄の第一王子を除いて他に争う相手もなく、ディルダはなるべくして王となった。
で、私にはちょっとした能力があった。それは見たものを完全に記憶できて、思い出せるというもの。さらにどれほど本を読んでも疲れない。
頭の中の図書館に知識を詰め込むことができた。
シフォン公爵家の長女であった私もまた、人生に選択の余地はあまりなかった。
私が十一歳の時に、先代の国王に望まれてディルダ公子と婚約したのだ。
その時はまだ兄がおり、国王になるかどうかは不透明だったけれど。
それから七年間は何の問題も波乱もなかった。しかし十六歳の時にディルダの兄が亡くなり、その翌年に先代国王も急死なされて、ディルダが即位してから問題が起き始めた。
あるいは――もっと前から萌芽はあったのかもしれない。
(全く、こんなことになるなんてね)
即位前のディルダは音楽を愛し、手製の楽器を作る程度。プライドはちょっと高かったが……生まれついての王族として許される範疇だった。
それが即位してからのディルダは遊び惚けて愛人にかまけて国政を顧みなくなったのだ。
仕事放棄を日常的にする夫に対して、私はなんとか穴を塞ごうと努力しているのだが……馬鹿なディルダは日々、新しい問題を引き起こす。
オルドスに連れられ、私はディルダの元に急ぐ。私は――心の中で嘆息する。
「本が読めればいいだけなのに」
私の興味は本と知識だった。
決して多くは望んでいないのに……。
ラッセリア公国には魔獣が数多く発生して生息する。世界屈指の危険地帯だ。
でも危険な魔獣を討伐することでラッセリア公国は素材を得て、他国に輸出する。
さらに魔獣討伐の前線に立つことで公国そのものも存続していられた。
それはラッセリア公国が魔獣を狩る武勲の家であるがゆえ。
諸国も手出しを控えてくれているのだ。
(なのに、ディルダは……! そんな贅沢なんてやっている場合じゃないのよ!)
読書を邪魔された怒りがふつふつと歩きながら燃え上がってくる。
私とディルダの間には子どもはいない。政務と読書に追われているからだ。
まぁ、私は背も高めで、すらりとして……光沢ある黒髪も可愛いというよりは凛々しい。
顔も整っているが、服と髪を整えて化粧すると男っぽい。
ディルダの好みは私の姿とは真反対だ。
馬鹿夫の好みは若くて背も低くて胸の大きな女の子だ。正直、気持ち悪い。
王宮の廊下を歩いていくと私の従者のルーインが謁見室の前にいた。
淡い金髪でしなやかな細身。天使のような外見の少年だ。
「コーデリア様、毎度お疲れ様です……」
「ええ、本当に」
彼とは長い付き合いで、しかも呼吸も合う。
私が読書の間に彼はお菓子を作ってくれていたのだけど、私の予定が狂ってしまったので台無しになったのだろう。
だからこのディルダのいる謁見の間の前で合流したというわけだ。
「爽やかなベリードリンクをお持ちしました。まずは清涼さをお身体に取り入れられては?」
「ありがとう。そうするわ」
ルーインの差し出した金属製コップを私は手に取った。真紅の液体が半分ほど入っている。
うーん、甘い。ベリーだけじゃなくて他にも何か入っている。
ごくごく……。一気に冷たいベリードリンクを飲み干す。
ほのかに粒が残り、酸味が効いている。
ただ、酸味の中にしっかりと蜂蜜の風味も含まれていた。
おかげで血の上った頭がすっきりとした。
「はぁー、冷静になったわ」
「王妃様……」
オルドスが心配そうに私を見つめる。
「大丈夫よ。夫を諌められるのは私だけだから」
ディルダの癇癖はひどくなっていた。
ちなみにこの宰相は先々月の着任だ。その前の宰相はニか月で辞めさせられた。
ディルダが即位してからの三年間で大臣級が総勢十七人も入れ替わっている。
いくら何でも多すぎるし、今では大臣のなり手を探すのも苦労するありさまだ。
(今のところは投獄なんかの刑をしないだけ、まだマシだろうけど)
しかしすべての兆候が危険である。貴族や官僚の不満は高まり、国政にも支障が出ていた。
それらの悪い部分に目を向けず、さらに側室を増やそうとするとは。
私はオルドスへ目配せする。
「あなたはここにいて。入るのは私とルーインだけでいいわ」
ばんと扉を開けて、私とルーインはディルダのいる広間へと乗り込んだ。
そこにはディルダと若い子爵令嬢メルダがいた。並んで豪勢な長椅子に座って、何やら宴を執り行っている。
さらには部屋の中に満ちるアルコールの臭い。昼間から女と酒浸りとは情けない。
かつてはディルダも太陽に映える金髪を持った美男子であった。
精悍な顔つきで軍馬を乗りこなし、威風堂々と筋肉に覆われた身体を維持していた。
でも今の彼はどうだろうか。深夜までの遊興のせいで目は充血し、国民に慕われた身体は贅肉に置き換わっている。
手にある竪琴だけが変わっていないのだが、今はその音色も耳障りだ。
(……本当に三年前とはずいぶん変わってしまったわ)
完全記憶の私の欠点として、些細な変化にも気付いてしまうということがある。
彼の体重は十キロ増えて、今では馬に乗るのも苦労するだろう。
そんな夫は乗り込んだ私を見て、露骨に嫌そうな顔をした。
「ちっ、うるさい奴が来た」
「今の陛下を見て心配をされる方々がおられるのです」
舌打ちとともに迎えられ、血圧が再び急上昇する。だが、言い合いになってはいけない。
目的は行状を改めさせること。それが公国のためであるのだから。
「まずは陛下、酒宴を止めよとは申しません。しかし真昼からでは酒に溺れていると誤解されるもの。六代前の公国王のことはご存じでございますか?」
「知らん」
「昼間より酒宴に浸り、三十歳の前に亡くなられました」
「くだらん。お前は相変わらず、昔のことを引用することが好きな女だな」
ディルダが竪琴を奏でる手を止めて、ぐいと杯をあおる。
それから赤ら顔を愛人のメルダに向けた。
(メルダ――学院の問題児ね)
メルダは愛嬌のある顔に薄桃色のボリュームある髪の毛、胸を強調した服。
そこまではいい。でも私は知っている。彼女の学院の成績は最底辺だ。
学院の成績も私は見られる立場なので、良く知っている。
勉強はできないのに徒党を組んで、真面目な生徒をいびると……。
彼女も酒を飲み交わし、酔っていた。顔からしてディルダに対する嫌悪感はなさそうだ。
つまりは――望んでディルダの隣に座り、寵愛を得ようということか。
(そんな価値、あるとは思えないんだけど)
「なぁ、こいつが俺の妃なんだと。どう思う? 記憶力の良いのが自慢なんだ」
「えー! あたし、知ってます! 召使いの方ってそういう特技がありますよね!」
「ぷはっ! あはは! 召使い……! くくくっ、そうだ。貴族に必要な能力じゃあないな!」
メルダは可愛らしげな瞳の裏で、私を馬鹿にした。いつか殺す。
ディルダもメルダを窘めるどころか乗って笑い出す始末。
「気に入ったぞ。お前を本当に妃にしてやる!」
「えっ、本当ですかぁ?」
「さっきは酒の上の冗談だったが、今度は本気だ。可愛いやつよ」
「また妃を増やすおつもりで? 三年の間に四人目の妃は多すぎます!」
差し挟んだ私の言葉にディルダが不快さを隠さない。
「お前はいつも俺に直言をしてきて邪魔をする。実に可愛げのない」
「差し出がましいとは思いますが、これも公国の為」
最近のディルダは公務を半ば放棄している。外交や国内政治を差配しているのは私だ。
だが、それもどうなることやら――このままディルダが公務を完全放棄して大臣をクビにし続けたら何もかも破綻してしまう。
新しい妃を増やす余裕などない。しかも昼間から酒を飲んで悦に入るような御令嬢が政務の役に立つとも思えない!
「公国の為といつまでも小うるさい」
「陛下、妃を増やすにしても間を空けてくださいませ」
そこでメルダが唇の端を曲げる。
「コーデリア殿下はご自分の地位が脅かされると思っておられるのですわ。浅ましい」
「お前、妃殿下になんという!」
ディルダの暴言は我慢できてもメルダの発言は看過できず、ルーインが切り込む。
嬉しく思いながらも、私はルーインを制した。だが、ここで引き下がれない。
公国の為に陛下を諌めなければ。
「陛下の御威光を借りれば無礼な振る舞いが許されるわけではありませんよ。それよりもあなたのご実家は借財で苦しいのでは? こんなところで宴に興じている場合ですか」
「……っ!」
私の記憶力は万事に渡る。もちろん貴族間の些細なことでも書類で目にすれば忘れることはない。痛いところを突かれてメルダが赤い顔をさらに赤くさせた。
「こ、この……っ! 陛下、なんとかしてくださいませ!」
「コーデリア、お前はどうあっても俺を阻むつもりか」
「それが必要であれば」
「……ふん、それならばお前を楽にしてやる」
ディルダはふらりと立ち上がり、足取りも不確かなまま私に近寄ってきた。
不穏な気配を感じて私は後ずさる。
「何をお考えで……?」
「コーデリア、貴様を正妃から側妃へと降格する!」
「また?」
王宮の一室、うららかな春の日差しあふれる寝室を大臣の金切声が切り裂く。
私―――コーデリア・シフォンは即座に読みかけの本を閉じた。
至福の読書時間を邪魔され、斜めになりそうなご機嫌をなんとか維持する。
私が出迎えたのは片眼鏡でくすんだ金髪の宰相オルドスであった。
彼は悪くない。悪いのは私の夫の国王ディルダだ。
常に、いつも。悪いのは私の夫だった。
私は努めて優しい声を出して呼びかける。
「何があったのかしら?」
「新しいご夫人を増やすと。今度は十六歳の子爵令嬢とのことです」
「はぁ? 正気……?」
「結婚式もすぐ執り行いたいとのことで」
こめかみを指先でぐりぐりと押し込み、なんとか気を取り直す。
私の夫であるディルダはラッセリア公国の第二公子として生まれた。
それが兄である第一子が魔獣による不慮の死を迎えた後は、王の座も約束されたものになっていた。というのも、ラッセリア公国はさほど大きくはない国だからだ。
人口八十万人、遠縁を含めても王族が二十人いない。
兄の第一王子を除いて他に争う相手もなく、ディルダはなるべくして王となった。
で、私にはちょっとした能力があった。それは見たものを完全に記憶できて、思い出せるというもの。さらにどれほど本を読んでも疲れない。
頭の中の図書館に知識を詰め込むことができた。
シフォン公爵家の長女であった私もまた、人生に選択の余地はあまりなかった。
私が十一歳の時に、先代の国王に望まれてディルダ公子と婚約したのだ。
その時はまだ兄がおり、国王になるかどうかは不透明だったけれど。
それから七年間は何の問題も波乱もなかった。しかし十六歳の時にディルダの兄が亡くなり、その翌年に先代国王も急死なされて、ディルダが即位してから問題が起き始めた。
あるいは――もっと前から萌芽はあったのかもしれない。
(全く、こんなことになるなんてね)
即位前のディルダは音楽を愛し、手製の楽器を作る程度。プライドはちょっと高かったが……生まれついての王族として許される範疇だった。
それが即位してからのディルダは遊び惚けて愛人にかまけて国政を顧みなくなったのだ。
仕事放棄を日常的にする夫に対して、私はなんとか穴を塞ごうと努力しているのだが……馬鹿なディルダは日々、新しい問題を引き起こす。
オルドスに連れられ、私はディルダの元に急ぐ。私は――心の中で嘆息する。
「本が読めればいいだけなのに」
私の興味は本と知識だった。
決して多くは望んでいないのに……。
ラッセリア公国には魔獣が数多く発生して生息する。世界屈指の危険地帯だ。
でも危険な魔獣を討伐することでラッセリア公国は素材を得て、他国に輸出する。
さらに魔獣討伐の前線に立つことで公国そのものも存続していられた。
それはラッセリア公国が魔獣を狩る武勲の家であるがゆえ。
諸国も手出しを控えてくれているのだ。
(なのに、ディルダは……! そんな贅沢なんてやっている場合じゃないのよ!)
読書を邪魔された怒りがふつふつと歩きながら燃え上がってくる。
私とディルダの間には子どもはいない。政務と読書に追われているからだ。
まぁ、私は背も高めで、すらりとして……光沢ある黒髪も可愛いというよりは凛々しい。
顔も整っているが、服と髪を整えて化粧すると男っぽい。
ディルダの好みは私の姿とは真反対だ。
馬鹿夫の好みは若くて背も低くて胸の大きな女の子だ。正直、気持ち悪い。
王宮の廊下を歩いていくと私の従者のルーインが謁見室の前にいた。
淡い金髪でしなやかな細身。天使のような外見の少年だ。
「コーデリア様、毎度お疲れ様です……」
「ええ、本当に」
彼とは長い付き合いで、しかも呼吸も合う。
私が読書の間に彼はお菓子を作ってくれていたのだけど、私の予定が狂ってしまったので台無しになったのだろう。
だからこのディルダのいる謁見の間の前で合流したというわけだ。
「爽やかなベリードリンクをお持ちしました。まずは清涼さをお身体に取り入れられては?」
「ありがとう。そうするわ」
ルーインの差し出した金属製コップを私は手に取った。真紅の液体が半分ほど入っている。
うーん、甘い。ベリーだけじゃなくて他にも何か入っている。
ごくごく……。一気に冷たいベリードリンクを飲み干す。
ほのかに粒が残り、酸味が効いている。
ただ、酸味の中にしっかりと蜂蜜の風味も含まれていた。
おかげで血の上った頭がすっきりとした。
「はぁー、冷静になったわ」
「王妃様……」
オルドスが心配そうに私を見つめる。
「大丈夫よ。夫を諌められるのは私だけだから」
ディルダの癇癖はひどくなっていた。
ちなみにこの宰相は先々月の着任だ。その前の宰相はニか月で辞めさせられた。
ディルダが即位してからの三年間で大臣級が総勢十七人も入れ替わっている。
いくら何でも多すぎるし、今では大臣のなり手を探すのも苦労するありさまだ。
(今のところは投獄なんかの刑をしないだけ、まだマシだろうけど)
しかしすべての兆候が危険である。貴族や官僚の不満は高まり、国政にも支障が出ていた。
それらの悪い部分に目を向けず、さらに側室を増やそうとするとは。
私はオルドスへ目配せする。
「あなたはここにいて。入るのは私とルーインだけでいいわ」
ばんと扉を開けて、私とルーインはディルダのいる広間へと乗り込んだ。
そこにはディルダと若い子爵令嬢メルダがいた。並んで豪勢な長椅子に座って、何やら宴を執り行っている。
さらには部屋の中に満ちるアルコールの臭い。昼間から女と酒浸りとは情けない。
かつてはディルダも太陽に映える金髪を持った美男子であった。
精悍な顔つきで軍馬を乗りこなし、威風堂々と筋肉に覆われた身体を維持していた。
でも今の彼はどうだろうか。深夜までの遊興のせいで目は充血し、国民に慕われた身体は贅肉に置き換わっている。
手にある竪琴だけが変わっていないのだが、今はその音色も耳障りだ。
(……本当に三年前とはずいぶん変わってしまったわ)
完全記憶の私の欠点として、些細な変化にも気付いてしまうということがある。
彼の体重は十キロ増えて、今では馬に乗るのも苦労するだろう。
そんな夫は乗り込んだ私を見て、露骨に嫌そうな顔をした。
「ちっ、うるさい奴が来た」
「今の陛下を見て心配をされる方々がおられるのです」
舌打ちとともに迎えられ、血圧が再び急上昇する。だが、言い合いになってはいけない。
目的は行状を改めさせること。それが公国のためであるのだから。
「まずは陛下、酒宴を止めよとは申しません。しかし真昼からでは酒に溺れていると誤解されるもの。六代前の公国王のことはご存じでございますか?」
「知らん」
「昼間より酒宴に浸り、三十歳の前に亡くなられました」
「くだらん。お前は相変わらず、昔のことを引用することが好きな女だな」
ディルダが竪琴を奏でる手を止めて、ぐいと杯をあおる。
それから赤ら顔を愛人のメルダに向けた。
(メルダ――学院の問題児ね)
メルダは愛嬌のある顔に薄桃色のボリュームある髪の毛、胸を強調した服。
そこまではいい。でも私は知っている。彼女の学院の成績は最底辺だ。
学院の成績も私は見られる立場なので、良く知っている。
勉強はできないのに徒党を組んで、真面目な生徒をいびると……。
彼女も酒を飲み交わし、酔っていた。顔からしてディルダに対する嫌悪感はなさそうだ。
つまりは――望んでディルダの隣に座り、寵愛を得ようということか。
(そんな価値、あるとは思えないんだけど)
「なぁ、こいつが俺の妃なんだと。どう思う? 記憶力の良いのが自慢なんだ」
「えー! あたし、知ってます! 召使いの方ってそういう特技がありますよね!」
「ぷはっ! あはは! 召使い……! くくくっ、そうだ。貴族に必要な能力じゃあないな!」
メルダは可愛らしげな瞳の裏で、私を馬鹿にした。いつか殺す。
ディルダもメルダを窘めるどころか乗って笑い出す始末。
「気に入ったぞ。お前を本当に妃にしてやる!」
「えっ、本当ですかぁ?」
「さっきは酒の上の冗談だったが、今度は本気だ。可愛いやつよ」
「また妃を増やすおつもりで? 三年の間に四人目の妃は多すぎます!」
差し挟んだ私の言葉にディルダが不快さを隠さない。
「お前はいつも俺に直言をしてきて邪魔をする。実に可愛げのない」
「差し出がましいとは思いますが、これも公国の為」
最近のディルダは公務を半ば放棄している。外交や国内政治を差配しているのは私だ。
だが、それもどうなることやら――このままディルダが公務を完全放棄して大臣をクビにし続けたら何もかも破綻してしまう。
新しい妃を増やす余裕などない。しかも昼間から酒を飲んで悦に入るような御令嬢が政務の役に立つとも思えない!
「公国の為といつまでも小うるさい」
「陛下、妃を増やすにしても間を空けてくださいませ」
そこでメルダが唇の端を曲げる。
「コーデリア殿下はご自分の地位が脅かされると思っておられるのですわ。浅ましい」
「お前、妃殿下になんという!」
ディルダの暴言は我慢できてもメルダの発言は看過できず、ルーインが切り込む。
嬉しく思いながらも、私はルーインを制した。だが、ここで引き下がれない。
公国の為に陛下を諌めなければ。
「陛下の御威光を借りれば無礼な振る舞いが許されるわけではありませんよ。それよりもあなたのご実家は借財で苦しいのでは? こんなところで宴に興じている場合ですか」
「……っ!」
私の記憶力は万事に渡る。もちろん貴族間の些細なことでも書類で目にすれば忘れることはない。痛いところを突かれてメルダが赤い顔をさらに赤くさせた。
「こ、この……っ! 陛下、なんとかしてくださいませ!」
「コーデリア、お前はどうあっても俺を阻むつもりか」
「それが必要であれば」
「……ふん、それならばお前を楽にしてやる」
ディルダはふらりと立ち上がり、足取りも不確かなまま私に近寄ってきた。
不穏な気配を感じて私は後ずさる。
「何をお考えで……?」
「コーデリア、貴様を正妃から側妃へと降格する!」

