紫陽花の短編集物語#2

残り10秒の恋人たち

残り10秒の恋人たち 第1話 触れたら始まる、残酷な10秒

夕方。雑居ビルの前。雑踏の中、春花が翔太を待っている。春花の目線は、誰かの腕時計を探しているように、常に時間を気にしている。
翔太が遠くから走ってくる。春花を見つけると、安心したように笑顔を見せる。
翔太 ごめん、春花!仕事長引いちゃって。
春花 (微笑むが、体が少し硬い) ううん、大丈夫。
翔太は、会えた喜びで、春花を抱きしめようと両手を広げる。
春花は、反射的に一歩後ろに下がる。
翔太 (少し寂しそうに) どうした?疲れてる?
春花 (焦って) ち、違うの!久しぶりだから、ちょっと緊張しちゃって!
春花は、触れることを極度に恐れている。なぜなら、彼に触れると、次に彼と会えるまでの残り時間がカウントダウンで始まってしまうからだ。
翔太 (春花の頬に、そっと手を添える) 無理しないで。
翔太の手が春花の頬に触れた、その瞬間。
春花の視界全体に、赤いデジタル文字がオーバーレイ表示される。
デジタル文字 『残り時間:00:00:10』
春花 (息をのむ。心の中で) 嘘……!また、たったの10秒…?
春花は、時間が止まったように動けなくなる。視界のカウントダウンが、無慈悲に進んでいく。
春花 (涙目で、必死に翔太の手を振り払おうとする) 翔太!だめ、離して!
翔太 (戸惑いながらも、優しく微笑む) どうしたんだよ。熱でもあるのか?
『00:00:03』
春花 (最後の力を振り絞って) 愛してる、翔太!
『00:00:01』
『00:00:00』
カウントダウンが**「0」**になった瞬間、翔太の体が、光の粒子となって、音もなく、目の前から消滅する。
春花 (手を伸ばすが、そこには何も残らない)
周りの雑踏は、何事もなかったかのように流れている。春花の手に残ったのは、翔太の熱だけ。
春花 (その場に崩れ落ち、嗚咽する。心の中で) わかってる。また、次の再会まで、一人…。







残り10秒の恋人たち 第2話 永遠に続く、最後の抱擁

春花のアパート。 昼間。春花は、ソファで丸くなり、翔太のTシャツを抱きしめている。数週間の孤独に耐え、次の再会を待つ。
春花 (心の中で) (次の再会までが長すぎる。なぜ、彼はいつも私に触れてしまうんだろう。私に触れなければ、この時間は続かないのに…!)
孤独に耐えかねた春花は、意を決して立ち上がる。
街の広場。 再会の場所。
春花は、遠くから翔太が歩いてくるのを見つける。春花は、今日こそは触れないと心に誓う。
翔太 (春花に気づき、笑顔で駆けてくる) 春花!会いたかった!
春花は、翔太に一切触れないように、両手を後ろに組む。
春花 (早口で) 翔太、今日は絶対触っちゃだめだよ!私たち、このまま普通に過ごそう!
翔太 (春花の警戒心を見て、少し寂しそうに微笑む) わかった。今日は、触れないデートをしよう。
二人は、絶妙な距離を保ちながら、他愛ない会話をしながら歩く。翔太が笑い、春花が微笑む。
夕方、別れ際。春花は、**触れずに「またね」**を言うつもりだった。
春花 じゃあ、翔太。私、行くね。
春花が背を向けた、その瞬間。
翔太が、春花の背中から、強く抱きしめる。
春花 (ハッとして、絶叫する) やめて!翔太!
春花の視界に、赤いデジタル文字がオーバーレイ表示される。
デジタル文字 『残り時間:00:00:10』
春花は、涙を流しながら、必死に翔太の手を振り払おうとするが、翔太の腕の力は強い。
『00:00:06』
春花 (泣きながら) どうして!どうしていつも触るのよ!また一人になるのが怖いの!
翔太 (春花の耳元で、切なげに囁く) ごめん、春花。でも、次がいつ会えるか分からないのが、怖いんだ。俺が次に君に会えるまで、この抱擁を覚えていたいから。
『00:00:03』
春花は、翔太の究極の愛情を知り、抵抗するのをやめる。強く抱きしめ返す。
『00:00:01』
『00:00:00』
翔太が、光の粒子となって消滅する。
春花の体に、最後の抱擁の温もりだけが、永遠のように残る。




残り10秒の恋人たち 最終話 時間を止める、私たちのキス

夜。都会を見下ろす屋上庭園。再会した春花と翔太が立っている。二人は、今日でこの関係に決着をつけると決めている。
春花 (夜景を見つめながら) 翔太。私たち、次に会えるまで、どれだけ時間がかかるか、もう知りたくない。
翔太 (春花の背中に立ち、優しく頷く) ああ。だから、もう二度と触れないようにしよう。それが、永遠に君を失わない唯一の方法だ。
二人は、触れ合わないように、ゆっくりと向き合う。しかし、その顔は、別れを前にした恋人のようだ。
翔太 (決意を込めた目で見つめる) 春花。俺は、永遠に君の記憶にいるために、今日、君を抱きしめる。そして、永遠に君に会えなくなるとしても、後悔しない。
春花 (涙が溢れ出す) そんなこと言わないで…!
翔太は、春花との距離を一気に詰める。春花は抵抗しない。
翔太の腕が春花を包み込む。
春花の視界に、赤いデジタル文字がオーバーレイ表示される。
デジタル文字 『残り時間:00:00:10』
カウントダウンが進む中、春花は翔太の顔を両手で包み込み、キスをする。それは、愛の深さを刻み込む、長く美しいキス。
『00:00:03』
春花 (キスを中断し、涙と笑顔で) ありがとう、翔太!
『00:00:01』
『00:00:00』
翔太の体が、光の粒子となって消滅する。
しかし、その瞬間、屋上庭園の風景全体が、光に包まれ、ホワイトアウトする。
場面転換。
【場所】 都会の雑居ビル前(昼間) 【登場人物】 春花、翔太
春花は、雑居ビルの前に立っている。目の前には、翔太が立っている。二人は、初対面のように、互いをじっと見つめている。
翔太 (春花に、戸惑いながら) あの、すみません。どこかで……お会いしましたか?
春花 (翔太を見て、何故か胸が締め付けられる。記憶は無いが、懐かしい) いえ……初めてです。でも……
春花 (翔太に、そっと手を差し出す) あなたと、また会えた気がします。
翔太は、春花の手を握る。その手は、何のカウントダウンも表示せず、ただ温かい。



「彼らは、永遠に会える道を選んだ。記憶を失う、という名の再スタートを。」
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