Please let me hear your voice-君の声を聴かせてー
番外編② 君の思いに気付けなくて……-ローズクオーツー(優海×久遠)
優海は、いつも兄を見ていた。

誰かの後ろに立つようにして、
静かに支える姿勢を崩さない人だった。

けれど——
久遠にはわかっていた。

優海が影にいる理由は、
役割なんかじゃない。
兄のことを見ていたからこそ、兄の気持ちにも一番に気付いていた。

その痛みを見てきたから、
自分だけ光に出ることを許せなかったのだと。

久遠がそのことに気づいたのは、
ある日の帰り道だった。

兄と柚歩の話題になったとき、優海はほんの一瞬だけ、
目を伏せた。

その伏せた目に宿った影は、誰かの痛みを背負ってきた人だけが持つ色だった。

久遠自身も身をもってわかっていた。
優海の影は、薄桃色だと思った。

優しさの色で、
痛みの色で、誰かのために自分を後回しにしてきた人の色。

優海は、兄への想いが報われなかった。

だから、久遠の想いにも気づいていながら、
受け取らないようにしていた。

自分だけ幸せになっていいのか——
そう思っているのだと、久遠はわかっていた。

仕事帰り、
優海が書類を抱えたまま立ち止まった。

「……久遠くん、少しだけいい?」

その声は、いつもより少し弱かった。

久遠は歩調をゆるめ、優海の横顔を見た。

影の中で揺れる薄桃色の光が、あまりにもきれいで、
ほんの少しだけ久遠の胸を締めつけた。

「優海は、誰かの痛みを背負いすぎだ」

言葉にすると、胸の奥が熱くなった。

優海は驚いたように目を見開いた。

久遠は続けた。

「そんなに自分を追い詰めなくていい……。
 優海はそのままでいいんだ」

その瞬間、
優海の肩がわずかに揺れた。

薄桃色の影が、光に触れたように見えた。

久遠はその揺れを壊さないように、ただ静かに隣に立った。

優海は、誰かの痛みを背負った優しさの証だ。

そして——
久遠が惹かれたのは、その影の色だった。

薄桃色の影が、
ゆっくりと光へ向かう気配がした。

それが、久遠の想いの始まりだった。
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