Please let me hear your voice-君の声を聴かせてー
麻衣は、光孝との未来を選んだ。

大きな声で言う恋じゃない。
誰かに誇示するような恋でもない。

静かで、ゆっくり育っていく、
大人の恋だった。

その夜、光孝と並んで歩く帰り道は、
いつもより少しだけ明るく見えた。

「……麻衣さん、寒くないですか」

光孝の言葉は、恋の熱さではなく、
寄り添う温度を持っていた。

麻衣は首を振った。

「大丈夫。
 ……ありがとうね」

それだけで十分だった。
それ以上の言葉は、この静かな幸福には必要なかった。

ふたりは後日、
柚歩の家に遊びに行った。

玄関を開けると、愛生がぱっと笑顔になって駆け寄ってきた。

「麻衣ちゃん!
 あ、光孝さんも!」

琉生は少し照れながらも、嬉しそうに二人を迎えた。

柚歩は台所から顔を出し、
その光景を見て静かに微笑んだ。

「……麻衣さん、よかったね」

その言葉に、
麻衣の胸の奥がじんわりと温かくなった。

「お互いに年取ってるから結婚式はしないんだけど、
 うちの親はもう亡くなっていないし……

 光孝くんのご両親には、もう子供は望めないってことは話してる。
 それでも、こんな私を温かく迎え入れてくれたの」

誰かの幸せを見守るだけだった人生から、
自分の幸せを選ぶ人生へ。

その変化は、
派手ではないけれど、
確かに麻衣の中で光になっていた。

帰り道、
麻衣はそっと指輪に触れた。

スモーキークォーツが、
夜の光を受けて静かに揺れた。

影の中で光っていた石が、
今は未来の灯りを映していた。

麻衣は歩を忘れたわけじゃない。
影を消したわけでもない。

ただ——
影の中で生きるのをやめて、光の方へ歩き始めただけ。

その静かな幸福は、
麻衣の人生で初めて “自分のために選んだ光” だった。
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