Please let me hear your voice-君の声を聴かせてー
「眩暈で倒れたようで、今まだ治療中です。」
柚歩は震える声でうつむいていった。

琉生の表情が一瞬だけ揺れ、その揺れが柚歩の胸の奥に重く沈んだ。

その時だった。
処置室の扉が開き、看護師が顔を出した。
白い光の中でその声だけがはっきり響いた。

「……あの、門倉優海さんの“婚約者”の方ですか?」

その瞬間、柚歩の呼吸が止まった。

“婚約者”
現実を受け入れられなくて、柚歩はうつむいて涙をこらえていた。
その単語が胸の奥に鋭く突き刺さり、琉生は一瞬だけ目を伏せ、静かに頷いた。
否定しない。訂正もしない。ただ、受け止めるように。

その沈黙が、柚歩の胸を深く抉った。

——婚約者
——そうなんだ
——知らなかった

胸の奥が音を立てて崩れていき。
看護師は琉生を案内して救急治療室の奥へ消えていった。
その背中を見つめながら柚歩は気づいてしまった。

自分は、知らないうちに、踏み込んではいけない場所に心を置いていたんだ。

扉が閉まる音が、胸の奥に静かに落ちた。
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