エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!
 千穂は焦ったようにスマホをしまおうとしたが、誤って指が画面に触れてしまったみたいで、声が聞こえてきた。

『……予定通り野々村仁奈と話をしました。ですが、どうも彼女は不服のようでして、あなた様からも彼女を説得』
 慌てた千穂が電話を切った。

 でもスピーカーから漏れ聞こえた声は、間違いなく私が今日会った金子さんだった。黒崎さんの秘書だ。

「どうして、千穂が金子さんと連絡を取っているの? 私のこと、話してたよね」

 信じられない気持ちで千穂を見る。千穂は目を泳がせたまま私の質問に答えようとしない。

「千穂!」

「……だって、私が金子さんに仁奈のことを色々教えてあげたから」

「私の、こと?」

 気まずそうにしていた千穂がまっすぐ私を見た。迷いを振り切ったのか、千穂は無表情だった。

 一方で、私は千穂の言葉の意味をまるで理解できなかった。なのに嫌な予感が背中を這い回る。

「そう。仁奈と黒崎さんの結婚は偽装だって教えてあげたの」

 千穂は静かに告げ、私は息を詰めた。

 私たちが偽装結婚であると黒崎さんに暴露したのは、千穂だった。

「どうして、そんなことを……」

「どうしてってそんなの決まってるじゃん。仁奈だけ結婚して幸せになるなんて許せなかったから」

 衝撃が強すぎて唇が震える私を、千穂は鼻で笑って続けた。
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