エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!
 君もだろ?という目を向けられたのは心外だった。

「期待はずれとは思っていないです。ただ、黒崎さんが有名な議員さんの息子さんだと聞いて驚いただけで」

「それにしては妙に考え込んでいたみたいだけど」

「それはその……義理のお父さんとはどういう関係性なんだろうと思いまして。私の家も母がいないので、父が再婚したらとつい想像してしまって」

「ああ、そっち?」

 拍子抜けしたのか、黒崎さんが背もたれにダラリと背中を預けた。心なしか彼のまとう空気が緩んだ気がする。警戒心みたいなものがなくなったみたいな。

「うん、まあ、よく会う親戚って感じかな。正直父親っていう感じはあんまりしない」

「そうなんですね」

「母親を支える人間ができたのは喜ばしいけどな。さんざん苦労していたから、再婚してくれて良かった」

 黒崎さんの目尻が少し下がる。私もその言葉に共感して頷いた。

「……そうですよね。私の父も、ひとりで子供ふたりを育てて大変そうでした」

「苦労したのは子供も同じだけど。君もそうだろ? 苦労してそうな顔してると思ってた」

「それって老けてるってことですか?」

 思わず顔に手を当てると、黒崎さんが吹き出して笑った。

「違う違う。しっかりしてるってことだよ。それにどちらかというと君、童顔だろ」

 そこからひとり親あるあるをぽつぽつ話していると、私が宿泊するホテルにタクシーが到着した。黒崎さんも一緒にタクシーを降りて、私を見送ってくれた。

「日本に帰ったら、今日のお礼になにか奢るよ」

「い、いえ。今日だけでも色々と買っていただいたりご馳走していただいたりしたので……それにこのドレスも私がいただくわけにはいかないのでお返しします!」

「返されても困る。誰が着るんだ」

「でも……」

「いいから気にせず受け取ってくれ。恩は売っても貸しは作らない主義だからな。また気が向いたときに連絡する」

「あっ、ちょっと!」

 私の返事も聞かないで、黒崎さんは去ってしまった。

 こうして私の初めての海外旅行は終わり、私は分不相応感が否めない高級ドレスたちと一緒に日本へ帰った。
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