エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!
「あ、の……」

「なにかあったか?」

「えっ?」

「目、赤いからさ」

 言われてハッとした。滉太郎さんが帰っているとは思わなかったから、泣いた後冷やすのを忘れていた。
「さっき目にゴミが入っちゃって」

 笑って、そう誤魔化した。

 残りの料理もふたりで運び、席について手を合わせた。回鍋肉を早速頬張ると、滉太郎さんが「やっぱり仁奈が作った方がうまいな」と呟いた。

「そんなことないですよ。滉太郎さんの回鍋肉、すごくおいしいです!」

 お世辞ではなく、本気でそう思う。伝わるように拳を握って力説すると、滉太郎さんは口元に笑みを浮かべた。

「じ、自分以外の人が作った料理って、新鮮でおいしく感じませんか? たぶん、その効果だと思います」

 滉太郎さんの笑顔が綺麗で見惚れてしまい、言葉がもつれた。ソワソワして、意味もなく椅子に座り直す。

「確かに、仁奈が引っ越してから久しぶりに人の手料理を食べたからな。でもそれを差し引いても、仁奈の料理はうまいよ」

 いつもありがとう、という滉太郎さんの言葉がぷかぷかと浮いて聞こえた。

 ついさっきまで気落ちしていたのに、今はこうして笑えているのが不思議だった。

 滉太郎さんと一緒にいる間は、心が軽くなる。
< 47 / 123 >

この作品をシェア

pagetop