エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!
「俺には話せないことか?」
仁奈が目を逸らす。俺には頼らないという意志が透けて見えて、もどかしさに駆られた。ギュッと彼女の手首を握る手に力がこもる。
「俺たちは偽装結婚。周囲を騙すからには、君の事情はある程度把握していないと、いざという時にボロが出る。だからなにかあったら俺にも共有をしてほしい。俺が力になれるかもしれない」
いろいろ建前を並べたけれど、結局のところ俺は仁奈を助けたいだけなのだ。いつものように笑っていてほしい。そうでないと俺の調子が乱れる。
仁奈が打ち明けるまで彼女の手を離すつもりはなかった。
仁奈は俺を見上げて困ったように眉を下げた。しばらくして、掠れた小さな声で「……父の手術ができなくなったんです」と告げた。
「どうして? お父さんは手術を決めたんじゃなかったのか?」
「腫瘍が広がっていて、手術は難しいと言われたんです。このままだと治らないって」
仁奈の目溜まった涙が頬を伝う。ハッと息をのんで、次の瞬間には彼女を自分の腕の中に収めていた。
抱きしめた拍子に仁奈の体がビクンと震えた。押し殺した嗚咽が耳に届く。思わず彼女の後頭部に頬を寄せた。彼女の苦しみに寄り添いたかったのかもしれない。
「他の病院は? 転院はできないのか?」
続く言葉には長い空白があった。
「ひとつだけ、治療ができると言ってくださった病院があるんです。でもその治療法は保険適用外で、支払いが難しくて」
「金なら俺が……」
「滉太郎さんにそこまでご迷惑をおかけするのはいきません」
仁奈が首を横に振る。
俺は密かに衝撃を受けた。
仁奈が目を逸らす。俺には頼らないという意志が透けて見えて、もどかしさに駆られた。ギュッと彼女の手首を握る手に力がこもる。
「俺たちは偽装結婚。周囲を騙すからには、君の事情はある程度把握していないと、いざという時にボロが出る。だからなにかあったら俺にも共有をしてほしい。俺が力になれるかもしれない」
いろいろ建前を並べたけれど、結局のところ俺は仁奈を助けたいだけなのだ。いつものように笑っていてほしい。そうでないと俺の調子が乱れる。
仁奈が打ち明けるまで彼女の手を離すつもりはなかった。
仁奈は俺を見上げて困ったように眉を下げた。しばらくして、掠れた小さな声で「……父の手術ができなくなったんです」と告げた。
「どうして? お父さんは手術を決めたんじゃなかったのか?」
「腫瘍が広がっていて、手術は難しいと言われたんです。このままだと治らないって」
仁奈の目溜まった涙が頬を伝う。ハッと息をのんで、次の瞬間には彼女を自分の腕の中に収めていた。
抱きしめた拍子に仁奈の体がビクンと震えた。押し殺した嗚咽が耳に届く。思わず彼女の後頭部に頬を寄せた。彼女の苦しみに寄り添いたかったのかもしれない。
「他の病院は? 転院はできないのか?」
続く言葉には長い空白があった。
「ひとつだけ、治療ができると言ってくださった病院があるんです。でもその治療法は保険適用外で、支払いが難しくて」
「金なら俺が……」
「滉太郎さんにそこまでご迷惑をおかけするのはいきません」
仁奈が首を横に振る。
俺は密かに衝撃を受けた。