エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!
「こんにちは。お母さんと一緒にきてる? お母さんを見かけないけど、どこにいるかはわかる?」

 腰をかがめて尋ねると、女の子と目が合った。薄いブルーの瞳。女の子は怪訝そうに眉根を寄せて、私を見上げている。

「Hi there, are you looking for your mommy or daddy?」

 英語に切り替えて尋ねてみる。大学の英文学科で英語力は鍛えられたから問題なく通じるはず。

 でも、女の子はぷいっとそっぽを向いて、私の質問には答えなかった。

「フランス人?」

 英語以外はからっきしなので、単語になってしまったけど今度はフランス語で聞いてみた。

 女の子は私の顔をジーッと穴が開くほど見つめてから「ううん、英語でいい」と答えてくれた。

「ママかパパは? ひとりできたんじゃないよね?」

「うん、一緒に来てるよ。今はお仕事の人と楽しく話してる」

 女の子が拗ねたように唇を尖らせた。

「だから、私もひとりで楽しもうと思って探検してるの。だから別に迷子じゃない」

 どうやら自主的な迷子らしい。見たところまだ小学校低学年くらいだ。女の子はバイバイと手を振っているが、放っておけない。

「そっか、ひとりで探検なんてすごいね。私なんて空港が広くて迷っちゃってるよ」

「大人なのに?」

「大人なのに。そうだ、もし良かったらゲートを案内してくれないかな? 一緒に行ってくれると、すごく助かるんだけど」

 期待を込めて視線を送ると、女の子は少し悩む素振りをしてから頷いてくれた。良かったと胸を撫で下ろす。なんとか迷子としてお母さんたちに引き渡せないかな。そう思いながら小さな手を握った。
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