エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!
「それでそんなお嬢様が黒崎さんのことを好きで、仁奈はやきもち妬いちゃったってわけね」

「えっ?」

 思いもよらないことを言われて、私は目を丸くした。

 千穂は私がうろたえるのを見て、楽しげに目を細めている。

「だって仁奈、ちょっと落ち込んだ顔してるじゃん。まあ、わかるよ。あんなイケメンと一緒に暮らしてるんだもん。偽装結婚っていっても好きになっちゃうよね」

 私が、滉太郎さんを、好き……?

 ありえない。だって、私たちの関係に恋愛は持ち込んだら成立しなくなってしまう。

 でも今までもやがかっていた心の中が、急にクリアになった気がした。滉太郎さんがそばにいると鼓動が早くなって、落ち着かなくなる。それは滉太郎さんのことが好きだったから?

 突然気持ちに名前がついて、納得すると同時に愕然とした。

 一年半後に、滉太郎さんとは一緒にいられなくなる。私は好きになってはいけない人を好きになってしまった。

「でも黒崎さんが仁奈を好きになることはないよね。偽装結婚だし」

 わかってる。わかっているけど、胸が塞がれる思いがした。

 当たり前の真実として投げかけられた千穂の言葉は、恋心を自覚したばかりの私にはあまりにも重たくて、衝撃だった。呼吸の仕方を忘れてしまったように、息がうまく吸えない。

 滉太郎さんは私を好きにならない。そのフレーズが頭の奥で何度もリピートされる。そのせいで、その後はうまく会話できた気がしなかった。せっかく会ったのに申し訳ない。しかも私の話ばかり。千穂も話したい事がいろいろあっただろうに。

「ごめん、今日は私の話ばっかり聞いてもらって。千穂は最近、どう?」

「どうって? 別に何もないよ」

 そっけない返事はまるでナイフのような鋭さを伴っていた。

 春樹さんと別れたと聞いてからずっと心配していたけれど、触れてほしくなかったみたい。私は不躾に尋ねたことを反省した。
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