エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!


「事実は、俺と仁奈が愛し合って結婚をしたという一点だけです」

『籍も入れていないのに?』

「彼女の父親は今、闘病中です。病状が落ち着いたら、時機を見て入籍するつもりでした」

『嘘はいい。君たちが最初から結婚を偽装していることはわかっている』

 まるで確証をもっているような口ぶりに、俺は眉をひそめた。

『それに、あのお嬢さんとこのまま関係を続けるのは得策じゃないことくらい君にもわかるだろう?』

「俺は損得勘定で仁奈と結婚するわけではありません」

『結婚は霞が関で身を立てていく上で重要なカードのひとつだ。そんな甘い考えではこの先生き残れないぞ』

「俺が生きていくのは政界ではないと、はっきり申し上げたはずです」

 父はなぜか、俺に自分の選挙区を継がせたがっている。だが俺は、外交官として国際社会に身を投じて日本の発展に貢献したい。表舞台に立って華々しい政策を実行したいわけじゃない。何度もそう伝えているのだが、父は一向に納得しない。

『優秀な君が私の跡を継いでくれたら、国も安泰なんだが。まあ、いい。将来のことは追って話そう。ただあのお嬢さんとは縁を切りなさい。彼女のような女性といてはいずれ身を滅ぼす』

「仁奈に会ったことのないあなたに、彼女のなにがわかるというのですか?」

『わかるんだよ。今は治療費という名目で金を請求しているんだろうが、いずれエスカレートする。人間の欲は尽きない。欲に溺れる人間は、男女問わず山ほど見てきた』

 仁奈はそんな女性じゃない。

 怒りが瞬間的に込み上げたが、反論が口をついて出るより前に父の言葉に違和感を覚えた。

「……待ってください。どうして俺が仁奈の父親の医療費を支払っていることを知っているんです?」

 俺は母にすら話していない。知っているのは、仁奈の家族だけのはずだ。誰から聞き出したのか。

『……今度会った時に詳しく話そう。近いうちに時間を作る』

 電話を終えると、頭痛を覚えた。

 業者でも使って仁奈の周辺を調べているのか。まさか、父がそこまでするとは思わなかった。父は俺と仁奈を別れさせるつもりでいる。今後も仁奈に接触することがあるかもしれない。

「仁奈が傷つかないように、俺が守らないと」
< 90 / 123 >

この作品をシェア

pagetop