エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!
 誰かにつけられてる、かもしれない。

 始めに感じたのは一昨日の夜。帰り道、絶えず後ろから足音がするのだ。それに視線も感じる。でもさりげなく振り返っても後ろには誰もいない。その日は気のせいだと思った。

 でも昨日も同じように足音が聞こえた。気のせいだと思いたいけれど、二日連続だとさすがに違和感はぬぐえなかった。

 今日は警戒して、左右をよく確認しながら職場を出た。

 庁舎は閑静な住宅地の中にある。周囲に地下鉄と私鉄の駅がそれぞれ反対方向にあるから、同じ時間に退庁する人はそれなりにいても帰る方向が分散する。

 だから私が利用する地下鉄の駅まで向かう道は、人も車もそれほど通っていない。

 私の背後から足音が聞こえる。ちょっと歩調を早めると、その足音も早くなる。その足音をもう気のせいとは思えなかった。

 不穏なテンポの鼓動に合わせて競歩並みの速度で駅へと向かう。地下鉄の出口が近づくにつれ、やっと人通りも増えた。人混みに安心しながらも、誰かに見られているような感覚が拭えない。

 私は人混みに身を隠すように俯きながら、電車に乗り込んだ。

 今日は三ヶ月ぶりに千穂と飲みに行く約束をしている。待ち合わせ場所は新宿東口。いつもはお互いの職場の中間地点にある小さなバルで飲んでいるから、意外な待ち合わせ場所だ。

 新宿駅の東口改札を出ると、千穂は壁にもたれるようにして立っていた。

「遅れてごめん」

「ううん、私も今来たところ」

 千穂の顔は晴れやかだった。春樹さんのことがあったから心配していたけれど、立ち直れたんだろうか。私は自分のことで精いっぱいでなにもできなかった。今日は千穂が話したいことを話してもらおう。

 歩いているとまた視線を感じたような気がした。振り返って確認してみるけれども、私を見ている人はいない。

「どうしたの?」

「なんか誰かに見られてるような気がして。でも気のせいだと思うから気にしないで」

 明るく笑い飛ばすと、千穂は一瞬考えるような素振りをした後、カラッと笑った。
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