本気のキスで甘くとかして
本気のキスで甘くとかして
「大熊、今度合コンするからお前も参加な。日付はあとで連絡するからヨロシク」
社会人四年目、初夏のある日。
社員食堂で定食を頬張っていた賢人は、二つ上の先輩である岡村宜仁に肩をたたかれてそう命じられた。体育会系で上下関係に厳しい会社なので、賢人が先輩の岡村にできる返事は「はい、わかりました」のみだ。拒否権など存在しない。
この国で最も権威のある大学を卒業した大熊賢人は、業界最大手の証券会社に入社した。もう四年目なので決して新人ではないが、まだまだ一人前には程遠く、様々な案件を先輩や上司と共に忙しくこなしている段階だ。
すでに同期の半数が辞職したが、高校卒業までサッカー部に所属していた賢人は体力も負けん気もあり、上下関係の厳しい体育会系の雰囲気には嫌でも慣れている。理不尽なことは数えきれないし、接待キャバクラや付き合い飲み会の数も多いが、その分成果が出た際の評価と報酬は明確に与えられるので、実力主義の社風は自分に合っていると思いながら、激務の続く日々を過ごしていた。
(合コンって……めんどくせぇな)
賢人に声をかけたあと、岡村は颯爽と立ち去っていった。おそらく賢人にしたのと同じように、「合コンに参加ヨロシク」と、ほかの後輩に声をかけに行ったのだろう。
芸能界に興味はありませんかとスカウトから声をかけられたこともある賢人は、とてもクールな顔つきをしている。決して愛想のある顔ではないのだが、整っているのに男らしさが滲み出るような、非常に目を奪われる顔立ちだ。それでいてスポーツをやっていたこともあり、背が高くてたくましい印象のある体つきもしているので、異性からとてつもなくモテる。「カノジョじゃなくていい、セフレかそれ以下でもいいから」などと言って、たまに賢人とセックスをするだけの関係で満足する女性もいるくらいだ。
そのせいと言うべきか、それとも元来冷酷な性格だからなのか、高校生の頃から賢人は、異性と誠実に付き合った試しがない。誰か一人の女性と付き合っている体裁なのに、ほかの女性から誘われて気が向けば、すぐに体の関係を結んだ。そのことを恋人に責められたら、いとも簡単に「じゃあ別れよう」と告げた。するとたいてい、女性のほうが「別れたくない」と言って拒む。「なら、俺の好きにさせろ」と賢人は言って、自由奔放に遊び惚けた。
社会人になってからは明確に特定の誰かと付き合うことはなく、好みの外見で都合のいい女性を何人かキープしている。鬱陶しいことを言ってきたらすぐに切るので、いま賢人とつながっている女性は誰もが皆、賢人とのことは遊びだと割り切ってくれている。
つまり、賢人は女関係に困っていない。合コンをして新しい出会いを得たいなどとは、微塵も思っていないのである。それどころか、少なからず相手に配慮することを求められる合コンなど、非常に面倒くさく思う。そんなことをしなくても、セックスをする相手はいくらでもいる。賢人にないのは、多忙ゆえのプライベートの時間くらいだ。
だが、先輩の言うことは絶対だ。拒否権などないのだから、合コンには参加するべきだし、先輩である岡村の顔を立てるためにも、それ相応の振る舞いをしなければならない。
心底面倒くさいと思いつつも、賢人は後日、岡村から送られてきた合コンの日時を確認し、それに必ず参加できるように仕事を調整するのだった。
◆◇◆◇◆
「証券会社って、超ブラックってイメージなんですけど、実際どうなんですか?」
そうしてむかえた合コンの日。
男性側のメンバーは幹事の岡村と賢人、それから賢人の同期の牧と後輩の石田。女性側のメンバーは、岡村と仕事で知り合ったという商社の営業職の吉岡道子と、その後輩の河合八重。それから、まだ大学生である吉岡の妹――が所属しているサークルの後輩の大西真帆と、その友人で同じく大学生の指原柚子。
男性陣はわかりやすい関係性だが、女性陣はどうもつながりがあるようでないような、不思議な関係だ。そう思って話を聞くと、参加予定だった大学四年生の二名が欠席になってしまったため、大西真帆と指原柚子という三年生の二人が、吉岡の妹経由で急遽呼ばれたらしい。
先輩である岡村の手前、ただでさえ雑な対応はできないのに、大学生相手となると、ますますおざなりな対応はできない。何か問題が起きたら、最初に責任を問われるのは大学生ではなく社会人のほうだからだ。
賢人は最初、決して表情には出さないものの、面倒くささに拍車がかかったと、忌々しく思った。
「まあ、世間一般的にイメージされていることは、ほぼそのままだと思うよ。ただ、あまり認知されていない、いい面もあるけどね」
社会人の河合八重からの質問に、岡村は苦笑しながら答えた。
合コンの会話はそうして、幹事である吉岡道子とその後輩の河合がほとんど、時たま大西という女子大生が進めていた。
(あいつ……指原とかいう奴は、ほとんど話さねぇな)
テーブル席の一番端に座っている指原という女子大生は、ほかの誰かの話に相槌を打ったり表情を変えたりはしているが、積極的に自分の話をするということはなかった。連携がとれていないからなのか、吉岡と河合が指原に話題を振るということもない。
合コンという場に来ているのに、指原は自分をアピールしたり、男性陣を値踏みしたりするということを一切していない。大西という女子大生のほうは、学生ながらも懸命に、社会人たちの話題に加わろうとしているのに。
(まあ、数合わせで呼ばれたんじゃ当然か)
社会人四年目、初夏のある日。
社員食堂で定食を頬張っていた賢人は、二つ上の先輩である岡村宜仁に肩をたたかれてそう命じられた。体育会系で上下関係に厳しい会社なので、賢人が先輩の岡村にできる返事は「はい、わかりました」のみだ。拒否権など存在しない。
この国で最も権威のある大学を卒業した大熊賢人は、業界最大手の証券会社に入社した。もう四年目なので決して新人ではないが、まだまだ一人前には程遠く、様々な案件を先輩や上司と共に忙しくこなしている段階だ。
すでに同期の半数が辞職したが、高校卒業までサッカー部に所属していた賢人は体力も負けん気もあり、上下関係の厳しい体育会系の雰囲気には嫌でも慣れている。理不尽なことは数えきれないし、接待キャバクラや付き合い飲み会の数も多いが、その分成果が出た際の評価と報酬は明確に与えられるので、実力主義の社風は自分に合っていると思いながら、激務の続く日々を過ごしていた。
(合コンって……めんどくせぇな)
賢人に声をかけたあと、岡村は颯爽と立ち去っていった。おそらく賢人にしたのと同じように、「合コンに参加ヨロシク」と、ほかの後輩に声をかけに行ったのだろう。
芸能界に興味はありませんかとスカウトから声をかけられたこともある賢人は、とてもクールな顔つきをしている。決して愛想のある顔ではないのだが、整っているのに男らしさが滲み出るような、非常に目を奪われる顔立ちだ。それでいてスポーツをやっていたこともあり、背が高くてたくましい印象のある体つきもしているので、異性からとてつもなくモテる。「カノジョじゃなくていい、セフレかそれ以下でもいいから」などと言って、たまに賢人とセックスをするだけの関係で満足する女性もいるくらいだ。
そのせいと言うべきか、それとも元来冷酷な性格だからなのか、高校生の頃から賢人は、異性と誠実に付き合った試しがない。誰か一人の女性と付き合っている体裁なのに、ほかの女性から誘われて気が向けば、すぐに体の関係を結んだ。そのことを恋人に責められたら、いとも簡単に「じゃあ別れよう」と告げた。するとたいてい、女性のほうが「別れたくない」と言って拒む。「なら、俺の好きにさせろ」と賢人は言って、自由奔放に遊び惚けた。
社会人になってからは明確に特定の誰かと付き合うことはなく、好みの外見で都合のいい女性を何人かキープしている。鬱陶しいことを言ってきたらすぐに切るので、いま賢人とつながっている女性は誰もが皆、賢人とのことは遊びだと割り切ってくれている。
つまり、賢人は女関係に困っていない。合コンをして新しい出会いを得たいなどとは、微塵も思っていないのである。それどころか、少なからず相手に配慮することを求められる合コンなど、非常に面倒くさく思う。そんなことをしなくても、セックスをする相手はいくらでもいる。賢人にないのは、多忙ゆえのプライベートの時間くらいだ。
だが、先輩の言うことは絶対だ。拒否権などないのだから、合コンには参加するべきだし、先輩である岡村の顔を立てるためにも、それ相応の振る舞いをしなければならない。
心底面倒くさいと思いつつも、賢人は後日、岡村から送られてきた合コンの日時を確認し、それに必ず参加できるように仕事を調整するのだった。
◆◇◆◇◆
「証券会社って、超ブラックってイメージなんですけど、実際どうなんですか?」
そうしてむかえた合コンの日。
男性側のメンバーは幹事の岡村と賢人、それから賢人の同期の牧と後輩の石田。女性側のメンバーは、岡村と仕事で知り合ったという商社の営業職の吉岡道子と、その後輩の河合八重。それから、まだ大学生である吉岡の妹――が所属しているサークルの後輩の大西真帆と、その友人で同じく大学生の指原柚子。
男性陣はわかりやすい関係性だが、女性陣はどうもつながりがあるようでないような、不思議な関係だ。そう思って話を聞くと、参加予定だった大学四年生の二名が欠席になってしまったため、大西真帆と指原柚子という三年生の二人が、吉岡の妹経由で急遽呼ばれたらしい。
先輩である岡村の手前、ただでさえ雑な対応はできないのに、大学生相手となると、ますますおざなりな対応はできない。何か問題が起きたら、最初に責任を問われるのは大学生ではなく社会人のほうだからだ。
賢人は最初、決して表情には出さないものの、面倒くささに拍車がかかったと、忌々しく思った。
「まあ、世間一般的にイメージされていることは、ほぼそのままだと思うよ。ただ、あまり認知されていない、いい面もあるけどね」
社会人の河合八重からの質問に、岡村は苦笑しながら答えた。
合コンの会話はそうして、幹事である吉岡道子とその後輩の河合がほとんど、時たま大西という女子大生が進めていた。
(あいつ……指原とかいう奴は、ほとんど話さねぇな)
テーブル席の一番端に座っている指原という女子大生は、ほかの誰かの話に相槌を打ったり表情を変えたりはしているが、積極的に自分の話をするということはなかった。連携がとれていないからなのか、吉岡と河合が指原に話題を振るということもない。
合コンという場に来ているのに、指原は自分をアピールしたり、男性陣を値踏みしたりするということを一切していない。大西という女子大生のほうは、学生ながらも懸命に、社会人たちの話題に加わろうとしているのに。
(まあ、数合わせで呼ばれたんじゃ当然か)


