鯨のうた

「そんな···冷たくだなんて、出来ないよ」

まるで独り言でも呟くようにわたしは言う。
その声に航は黙ったまま、わたしを見つめていた。

「確かに···"好きだなんて思った事ない"とは言ってしまったけど、嫌いなわけではないし···、それに、わたし、同じ営業部として働く人間としては、仕事の面で尊敬はしてるから······」

"尊敬"ていう言葉を口に出してみると、何だかはずかしくなってきてしまう。
しかし、それは事実だ。

仕事の事では、本当に航を尊敬している。
一時期、一緒に仕事をしていたからこそ、わたしは彼の努力を知っているから―――

「"尊敬"かぁ〜···、それはどうも」

そう言って、航はフッと笑う。
わたしは笑われた事が恥ずかしくなり、照れ隠しで「何よ!褒めたのに!」と怒ってみせた。

「あー、ごめんごめん。笑っちまったけど、でも···嬉しいよ。ありがとう」

航には珍しい穏やかな口調。
いつも言い合いになるはずの航と張り合いがなく、何だか調子が狂ってきてしまう。

わたしは、今の航との距離感や言葉選びに戸惑いながら、何とか元の関係に戻れないのかを頭の中の引き出しを探りながら考えた。

すると、航が「···なぁ、千衣」とわたしの名を呼んだ。

「お前、雨龍課長のこと···好き?」
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