鯨のうた

わたしが持って来た資料を手に持った雨龍課長は「ありがとね」と言いながら爽やかな笑顔を見せると、すぐ目の前の会議室へと入って行った。

突然、何の前触れもなく、雨龍課長の恋人役を演じなくてはいけなくなり、戸惑い不安になっていたはずが、雨龍課長の笑顔を見ただけで何故か許せてしまった自分に(何て単純な女なんだろう)と、呆れ果ててしまう。

(こういうところが、駄目なんだろうな···)

そんな事を思いながら、わたしは会議室の前から去り、エレベーターに乗って営業部のオフィスへと戻ったのだった。


それから、いつもと変わらぬ業務をこなし、時間は流れもうすぐ定時の18時を迎えようとしていた。

定時を迎えたらすぐ帰れるように、早々に帰り支度を始める社員も出てくる。
そんな時、後ろのデスクから女性社員たちの雑談が聞こえてきた。

「えっ、嘘ぉ!雨龍課長、彼女いるの?!」

その言葉に過剰に反応してしまい、丁度打ち込んでいた資料の文字を打ち間違える自分がいた。

(え、もう噂話が広まってる?!中原専務の口が軽さったら、本当に···)

「そうらしいよ。さっきお昼休憩の時に中原専務と吉田本部長が話してるの聞いちゃったんだよね」
「うわぁ〜、やっぱりそうだよね。雨龍課長がフリーなわけないもん。その彼女羨ましい〜」
「しかも、その彼女···うちの会社の営業部の中に居るらしいよ」
「えっ!マジ?!この中に雨龍課長の彼女いるの?!」

聞こうと思わなくとも、自然と耳に入ってきてしまう後ろの女性社員たちの会話。
わたしの心臓は、動悸でも起こしているかのようにドクンドクンと身体中に響き渡るように音を立て始めていた。

その会話はわたしだけではなく、周りの社員たちにも聞こえており、今まで色恋話がなかった雨龍課長の"彼女の存在"に次第に周りがざわめき始める。

想定よりもあまりにも早く広まってしまっている噂話···―――

わたしは早くその場から立ち去りたい気持ちでいっぱいになった。
< 9 / 9 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

陰日向に咲く儚花

総文字数/107,165

恋愛(オフィスラブ)114ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
―第53作目― 触れれば呆気なく散ってしまいそうで···―――― *** 野花 菫 Nobana Sumire × 日向 慈 Hinata Megumi *** ✳一部性的描写が含まれています✳ 『陰日向に咲く儚花』 2026.3.5*完結
余命2ヵ月のわたしを愛した死神

総文字数/112,700

恋愛(純愛)105ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
―第54作目― 君は雨が降る理由を知っているかい? *** 芽吹 雫 Mebuki Shizuku × 雨城 慧仁 Amaki Keito *** ※この物語に出てくる地名や施設名、知識などは 全てフィクションです。 『余命2ヵ月のわたしを愛した死神』 2026.3.20*完結
あきれるくらいそばにいて

総文字数/33,761

恋愛(オフィスラブ)55ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
―第23作目― それでもやっぱり君のそばに居たい――― CAST 星野 葉月*Hoshino Hazuki 白崎 未来*Shirasaki Mirai ✳性的描写が含まれています✳ ❀レビューありがとうございます❀ ✽sadsukgc様

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop