この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました
 見送ってからひとりサンドに視線を落としたそのとき、ベンチに置かれたままのスマートフォンが震えた。
 何気なく視線を向けると、上を向いたままの画面に名前が表示された。
 〝日高さん〟
 それを目にした瞬間、空気が変わった気がした。

 (……そういうことか)

 ゆっくりと視線を外す。これまでの違和感が静かに繋がった。
 母の言葉、そして帆奈美の不自然な態度。さらに、この名前。
 偶然で片づけるには、できすぎている。日高は母の息がかかった、宏臣のお目付け役だ。点と点が静かに繋がる。

 宏臣は、何事もなかったかのようにサンドに手を伸ばした。
 戻ってくる足音が聞こえ、帆奈美が隣に腰を下ろす。

 「お待たせしました」

 先ほどまで震えていたスマートフォンは、静けさを取り戻して置かれている。

 「どうかしました?」

 探るような声がかけられた。

 「いや、べつに」

 視線を上げることなく答え、サンドに口をつけた。それ以上は、なにも言わない。
 
 今ここで問いただすのは簡単だ。だが、それで得られる答えに意味はない。
 帆奈美のことは信じている。だが、その周囲はべつだ。
 宏臣は平静を保ったまま食事を続けたが、先ほどまでの穏やかさは失っていた。
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