この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました
難攻不落の砦が落ちるとき
夏の名残を風に感じる九月中旬、帆奈美は鳳麗歌劇団の公演に来ていた。
半ば諦める形で宏臣の母親から結婚を認めてもらえたのは、二カ月半前。何度か食事の機会を設けてもらったが、態度はそれほど軟化していない。
たとえば食事の席で、やわらかな笑みを浮かべながら『家庭に入る覚悟はあるのかしら。中途半端な気持ちでは務まらないわよ』と静かに釘を刺されることがあった。
あるときは、さりげない口調で『あなたのご実家は、どちらに? ……ああ、そう。ごく一般的なのね』と値踏みするような視線を向けられもした。
露骨な否定ではないが、歓迎されているとも決して思えない。その都度、宏臣が冷静かつ優しく守ってくれているため、帆奈美自身はそれほど傷つかずに済んでいるのが救いだ。
とはいえ、結婚を許してもらえたのだから大きな一歩。少しずつでいい。いつか心から認めてもらえる日がくるよう、誠心誠意接していくだけだ。
日高はあのあと退職したと聞いた。父親共々、東城コンツェルンを支えてきた人物でひとりであるため宏臣の父は強く引き留めたそうだが、彼は出した答えを曲げなかったらしい。
今日の公演は、代理お見合いで迷惑をかけたお詫びと宏臣とうまくいったお祝いで、愛理からチケットをプレゼントされて実現した鑑賞である。もちろん普通では手に入れられないシートなのがありがたい。
(今日も近くでじっくり鑑賞できる……!)