この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました

 夜の街を滑るように、車が静かに走っていく。
 助手席でシートベルトを整えながら、帆奈美はふうっと小さく息を吐いた。張り詰めていたものがほどけて、胸があたたかい。

 「なんだか、夢みたいです」

 ぽつりと零すと、ハンドルを握る宏臣がちらりと視線を寄越した。

 「なにが?」
 「お義母様と、あんなふうに話せるなんて思ってなくて……」

 思い出すだけで、自然と頬が緩む。
 凪子と並んで食卓を囲み、他愛のない会話を交わした時間。あれほど遠かった人が、予想もしないほど近くに感じられた。
 それもこれも鳳麗歌劇団の、そして愛すべき推しの瑞月ひかるのおかげである。

 宏臣はくすっと笑って口元を緩めた。

 「まさか、あの人が〝推し活仲間〟で距離を詰められるとはな。正攻法で崩すには時間がかかると思っていたが……」

 どこか呆れたようで、それでいて可笑しそうな声音だ。ひと呼吸置いて淡々と続ける。

 「盲点だったな。まさか鳳麗歌劇団とは」

 その言い方に帆奈美も笑ってしまう。

 「お義母様、すごく楽しそうでした」
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