この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました
 どうやら本当に空腹だったらしい。
 言葉を止めることなく、舞台の魅力を語りながらも皿の上の肉は着実に減っていく。夢中になって話し、夢中になって食べる。そのどちらにも遠慮がない。

 宏臣はワインのグラスを傾けながら、その様子を静かに眺めた。
 普通なら、ここまで一方的に趣味の話をされれば辟易してもおかしくない。だが、不思議と嫌な気はしなかった。
 むしろ、楽しそうに語るその横顔から目が離せない。

 推しの名前を口にするたび、彼女の表情は少しだけ華やぐ。舞台の情景を思い浮かべているのだろう。視線が遠くへ向く瞬間がある。
 そして次の瞬間にはステーキをもうひと口頬張り、満足そうに頷く。
 実に忙しい。

 宏臣は口元を緩めた。

 こうして目の前で無邪気に喜ばれると、注文した側としては悪い気はしない。まさに食べさせ甲斐があるという言葉がしっくりくる。

 お見合いは通常、自分がどれだけ相手に相応しいかを見せる場。誰もが家柄や教養、おしゃれな趣味や家事能力などの長所を並べる。アピールポイントをいかに上手に見せ、ほんの少しよそゆきの自分をまとって臨む儀式でもある。

 素の自分に薄いヴェールをかけて、丁寧に形を整えるもの。それが、愛理にはない。なんなら素を惜しみなく晒している。
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