『恋愛ってなんですか?』

第3話 お決まりの展開

 自分で始めた勝負に負けた私は、委員長としてクラスの進行役を務めていた。後ろの黒板では、佐伯くんが丁寧に綺麗な字で板書をしてくれている。
「じゃあクラス委員はこんな感じで……いいですか?先生」
「おー、オッケーオッケー。二人ともありがとうなー」
 
 私はなんとか委員長としての初仕事をやり終えた。
 委員長なんてやったことないし不安しか無かったけど、他の委員決めを仕切るくらいだったので、問題なく終えることができた。
 佐伯くんはチョークを戻し、席へと戻る。私も後ろについて自分の席へと戻った。
 
「じゃあこれで今日は終わりだ。はい、帰りの支度。明日からは授業だからなー。委員長、号令」
 あぁ、それも私の仕事ですか。
「起立、礼」
「気をつけて帰れよー」
 やっと終わった。クラスのみんなも手際よく帰りの支度をする。
 私も帰ろうと、鞄に筆箱やメモ用のノートをしまっていた。時計を見るとまだ11時。今日はバイトも無いし、ゆっくり家の掃除と勉強でもしようか。なんて考えていると先生がこちらに近づいてくる。
「悪い。言い忘れてたんだけど佐伯と佐藤はクラス委員会があるから、11時半に視聴覚室な、よろしく」
 そう言い残し飄々とその場を去って行く。
 ……早帰りだと浮き足立っていた気持ちを返してほしい。
 
 ここまで来ると、いかに、この担任が適当なのか理解してもらえるだろう。
 この担任の名前は、望月和也略してモッチー。黒縁メガネがよく似合う28歳。好きな物はコンビニのアイスカフェラテ。
 ……本人が一年生の頃に自己紹介で言っていた。
 見ての通り、基本的にやる気をどこかに置いてきたようで、適当な部分がよく目立つ。
 が、外見の良さと親しみやすさでカバー出来てしまっているので、生徒には人気がある。こんな適当な感じなのに、なんかズルい。
 「…………。」
 なってしまったものは仕方ない、と諦める。
 すると、帰る支度を終えた葵が肩をトントンと叩いてきた。
「頑張れ、委員長。」
「絶対面白いって思ってるでしょ」
 
 顔にそう書いてある。

 「男気じゃんけんって意気込んでやって、無事に委員長になってるのには男気感じたわ〜」
「ヤメテ……イワナイデ……」
 恥ずかしさに顔を塞ぐ。顔から火を吹きそうだ。
「まぁでも、佐伯くんとやれるなんてめっちゃいいじゃん!彼、校内人気No. 1だよ!頭良し、運動神経良し。話しかけてもあんまり喋らないから女子達も遠巻きに見てるだけらしいけど」
「うちの学校にそんな人がいたこと自体、私は今日初めて知ったよ。ていうかそのランキングはどこで発行されてるの。」
「新聞部!遥は一年の時からバイト三昧で、授業終わるとすぐ帰ってたもんね。そういう情報にも興味無かったし」
「だから、たくちゃんのことも今さっき知ったんだよねぇ」

 拓真くんとお揃いのキーホルダーを付けた鞄を肩にかけ、嬉しそうな由乃と拓真くんが会話に混ざってくる。
「まじか(笑)うちは知ってたよ〜なんなら有名じゃんこのカップル」
 
 全く知らなかったの?と葵は笑う。
 有名なのか……知らなかったの私だけか……。
 ずっと一緒に過ごしてきた友達の情報を自分は全く知らなかったのに、他の人は知っていた事実に、虚しさを感じつつも、バイト三昧で聞こうともしなかった自分に反省。
 拓真くんは何か思うことがあるようで、遠慮がちに遥に話す。

「朔、言葉数少ないし、わかりづらいし、無愛想だけど。悪い奴じゃ無いから!よかったら仲良くしてやって欲しいな」
「う、うん。そもそも佐伯くんが仲良くしてくれるかわからないけど」ていうか何で私?
 葵、由乃、拓真くんと別れを告げ、視聴覚室へと向かう。どうやら佐伯くんは先に視聴覚室へと向かったようだ。
 「視聴覚室ってどこだっけ……あれ、この階であってるよね……?」
 あろうことか、校内で迷子になってしまっていた。
 視聴覚室なんて普段使わないからわからない。視聴覚室っていつ使うんだろう。
 一人であたふたと廊下を探し回っていると、後ろから名前を呼ばれた気がした。
「佐藤さん」
 振り返ると、そこに彼が立っていた。
「佐伯くん」
「視聴覚室、こっち」
 迷子になっていた私を見かねて、声をかけてくれた様だった。ほんとに助かった。見つからなかったらどうしようかと、かなり焦っていた。
「ありがとう!」
 先へと進む彼の背中を私は走って追いかける。
 視聴覚室の表札は、しっかり探さないと見えない角にあった。佐伯くんのおかげで、私は無事クラス委員会に参加する事ができたのだった。


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 時計は12時10分。やっと委員会が終わった。
 
 やっと帰れる!
 さっさと帰ろう、と思ったが、ふと拓真くんの言葉を思い出し、悩んで結局、佐伯くんに会話を試みることにした。
 さっき助けてもらったし……いつまでも男子を避けてるわけにもいかないし。練習のつもりで声をかける。
 
「佐伯くん、もう帰る?」
「まぁ……」
「じゃあ、途中まで一緒に帰らない?」
「なんで?」
 「なんで」と来ました。いや本当に何ででしょうね。私もわからない。でも、男子を避け続けるわけにもいかないし、ほんと若干だけど成績が常に私の上にいる君にも興味がある。とは言えないので、一旦口を噤む。
 佐伯くんを気にしてる女の子だったら、彼のこの返答はショックを受けると思う。
 とりあえず、それらしい理由を捻り出してみる。
「んー……せっかく委員長、副委員長になったから、お互いの事を知るのもまた一興……みたいな」

 場に沈黙が流れる。

「……まぁいいけど」
 いいんだ。思わず心の中でツッコむ。
 完全に断られる雰囲気だったから断られると思った。
 納得したのか、してないのか、わからない。この人、感情が読みづらい。
 とりあえず一緒に帰るのは良しとしてくれたみたいでよかった。
 
 (あれ?側から見たら私が佐伯くんと帰りたがってるみたいじゃない?)
 
 自分の行動の思い切りの良さに今気付く。
 (そんな下心は1ミリたりともありません。拓真くん!これでいいんですよね!?)
 
 心の中で拓真くんにテレパシーを送っている間に佐伯くんの支度は終わった。

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 昇降口に向かい、上履きをローファーに履き替え、校門を出て絶妙な距離を保った私達は、同じ駅の方面へと歩く。
 場に流れる気まずい空気が苦手な私は、必死に会話を捻り出す。

「佐伯くんって最寄駅どこなの?」
「梅ヶ丘」
「あ、うちと一緒だね、家近くだったりしてね〜(笑)」
 
 なんて冗談をかましていると、まさかの最寄駅からの道も一緒だった。
 電車の方面が一緒なのは違和感がなかった。だけどまさか同じ駅で降りる事になるとは思わなかった。どうしよう。会話のネタがそろそろ底をつきそうだ。
 それでも、ここから別々で帰るのもおかしい気がしたので、途中までそのまま帰ることにする。
 勉強のこと、友達のこと、バイトのこと。食べ歩きしながら巡りたいお店のこと。ほぼ一方的に自分の話ばかりしてしまった。
 うざくなかったかな。と、少し不安になる。
 一応、相槌はしてくれてたけど。……佐伯くんは割と良い人なのかもしれない。

 ……それにしても、帰り道、一緒過ぎる気がする……。
 なんだか少し、違和感を感じた。
 学校を出てからずっと一緒に下校している。いつ帰り道は分かれるのか。

「私もう家に着くんだけど、佐伯くんはもう少し先?」
「いや、俺ももう着くけど」
「そうなんだ。一軒家?」
「いや、マンション」
 
 ……この辺りのマンションって……。
 うちのマンションしかないんだけど。
 目の前にそびえ立つ、大きなマンション。
 
「俺、このマンションの5階」
「…………私このマンションの2階です……」

 同じマンション。それは帰り道一緒だよね。
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