『恋愛ってなんですか?』

第6話 知らない

 暗くなった道を、街灯頼りに二人で歩く。
 
 人通りは少なく、帰宅ラッシュ時間なのもあって、学生より帰宅途中の社会人のが目立った。
 夜独特のこの空気感が、私は結構好きだ。
 図書館で勉強していて気になったことがある。
「そういえば、朔って眼鏡なんだね」
 いつもは眼鏡をかけていない朔が、図書館で勉強を始める時は眼鏡をかけていた。
「別に全く見えない訳じゃないけど、勉強に集中する時は付けてる。」
「そうなんだ。なんか眼鏡ってかっこいいよねー」
「?」
 えっと……。特に深く意味を考えていなかった。
 少し考え、捻り出す。
「なんか、色々出来そうに見えるから?」
「単純だな」
 朔の顔が緩む。確かにこれは、かっこいい。
 学校で人気があるのも当然だ。その横顔がとても素敵に見えて。ん……?何を考えてるんだろう私は。
 私は話を切り替える。
 
「朔の集中力って凄いよね!」
「そうか?」
「私はもう残量ゼロ」
 指でバツを作りながら、もう今日は頑張れない事を体を使って表現する。
「ふっ……」
「朔って私の動き見てよく笑う」
「?自分じゃわからないな」
「うーん」と朔は顔を顰めた。
「ずっと無表情だし、最初は何考えてるのかわかんなくて困ったけど。今は話すのも楽しいよ」
「そりゃどうも」
 満更ではないのか、朔は微かに微笑んでくれた。
「遥のおかげかもな」
「私、何にもしてないよー?」
 嬉しいような、恥ずかしいような、変な気持ちだ。

「そういえばこの前――」
 ――――……
 
 他愛ない話をしながら帰路を辿る。
 少し前までは、男の人とこうして話しながら歩くなんて、想像すらつかなかった。
 毎日同じ日々を繰り返せればいいと思っていた私だけど、新しい友達が増える。
 こういう変化は悪くない、そう思えるようになった。
 曲がり角に差しかかった時、向かいからライトのついていない自転車が飛び出してきて驚く。
 
「えっ!?」
 
 頭でどうするか考える頃には、既に強い力で体を引っ張られていた。
 自転車の男性は降りることなく、足早に去っていく。
 驚いた。光も見えなかったから、何も考えず曲がる所だった。避けられなかったら、また怪我していたかもしれない。
「ありがとう、助かったよ――」
「大丈夫か?」
 
 顔を上げると、息が届きそうなくらい、近い場所に朔の顔があった。顔が、近すぎる。
 
 経験した事のない状況に心臓が大きく聞こえる。
 落ち着いて見ると、私は朔に片手で抱きしめられていた。
 
「どぅえっ!?!?」
 顔から火を吹いてしまいそうな恥ずかしい状況に、思わず珍妙な声を上げる。
 今の私はすごい気持ち悪い奴かもしれない。
 「朔!ありがとう!もう大丈夫!」
 慌てて朔から離れようと体をバタつかせる。
 朔は私が離れようとしているのに気づいたのか、私を解放した。
「怪我は?」
「大丈夫……!」
 何か悪い事をしたわけでもないのに、なんで私焦ってるんだろう。
 気を落ち着かせてから、また二人で駅へと進み始める。
 
 耳の火照りがなかなか引かない。
 その隣で、朔の耳も少し赤くなっていたことを、私は知らなかった。
 
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 中間テストまであと僅か。
 
 教室内はテストシーズン特有の雰囲気に包まれ、廊下側一番前の席に座る葵の姿は、屍と化していた。
「無理、テスト嫌いー……」
「小学生か」
 私は葵の頭にチョップを入れる。
 葵はテストの度に、こうやってごねるのが止まらない。
 
 彼女の愚痴はまだ続く。
「スポーツ推薦の人間を進学科なんかに入れた奴は誰だよぉ……スポーツ特化で来てるのに、勉強まだ特化させようとするじゃないよぉ……」
「勉強は大切だぞー」
 私は葵に誤魔化しようのない現実を突きつけた。
 
「あおちゃん、荒んでるねぇ」
 登校してきた由乃がひょこっと私の後ろから顔を出す。
「由乃、おはよう。」
「よーしーのぉ……」
 荒む葵の頭を「よしよーし」と由乃は撫でる。
 私は葵が荒んでいる原因を由乃に説明した。
「そっかぁいつも通りだねぇ」
 一瞬考え込み、「そうだぁ!」と由乃は何か思いついたように話し出す。
 
「テスト、終わったらみんなでデートしようよ」
『『デートぉ?』』
 
 由乃の突拍子もない発言に二人で顔を顰める。
 結論から言うと、私達と拓真と朔の五人でどこかに遊びに行こうという意味らしい。
「そうだろうなとは思いましたけども。」
 それ、デートではない。
「それをデートとは言わんやろ……デートの概念間違えてるって……」
 引いた顔で由乃を見つめる葵。
「だって男女が日時を決めて、会う事をデートっていうでしょ?だから合ってるよぉ」
 「ね?」と可愛く首を傾げる由乃。
『『うぅん?』』
 由乃の言いたい事は分かるけど、絶対違うと思った。
「まぁ、楽しそうだからいっか」
「でしょぉ?」
「よーしテストさっさと終わらせるぞー!」
「後でたくちゃんにも話しておくねぇ。朔くんにもはるちゃんから話しておいてくれる?」
「んー。わかったー」
 
 話を終え、席へと戻ると丁度よく予鈴が鳴った。
 
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 昼休み。
 自分の席でお弁当を広げ、食べやすいよう机に並べる。
 すると、購買にパンを買いに行っていた朔が帰ってきた。
「今日は何パン?」
「カレーパン」
「購買のカレーパン美味しいよね。個人的にはコロッケパンも捨てがたい」
「確かにあれは美味い」
「でしょ!」
 私も購買のパンはたまに買う。
「拓真達は?」
 朔はパンの袋を破り、頬張りながら聞いてくる。
「由乃と拓真は茶道部の子達と話ついでに、葵も部活の人達と話があるからそっちでご飯するって」
「そうか」
 
 ……あれ?
 
「朔、いつもお昼は購買のパン二つ食べてるけど、今日は一つで足りるの?」
 朔はいつも二つパンを買ってくるが、今日は一つしか持っていなかった。
「まぁ、足りてはないけど。出遅れたから仕方ない」
「購買のパン、競争率高いもんね」
 お節介かなとも思いつつ、朝作った弁当の唐揚げを箸で挟み、朔に差し出してみる。
「作った唐揚げ、食べる?」
「……いいのか?」
 
 朔は少し躊躇うが、嫌な訳ではなく、私のお弁当が減るのを気になる様だ。
「朝食べ過ぎたからそんなお腹空いてなかったし、良ければだけど。美味しさは保証しないけどね!」
「なんだそれ」と、朔は優しく微笑んだ。
 朔の綺麗な顔がこちらに近づく。口をゆっくりと開けてパクッと箸を挟む。
「……美味いな」
 
 朔の嬉しそうな表情に心臓が。この前からなんか私は変だ。なぜか心が落ち着かない。変な感じ。私は箸を動かす。
「ほ、ほんとー?!はい!これも!成長期なんだから食べな食べなー!」
 次々とおかずを入れるため、弁当から朔の口に運ぶ。
「ちょ、遥、まっ」
 朔の口はおかずを詰められた状態だった。

「あ。」
 朝、由乃達と話した事を思い出す。
「朔、中間テスト終わったらみんなで遊びに行かない?」
 口の中に放り込まれたおかずを食べ切ってから、朔は話し始める。
「みんな?」
「葵・由乃・拓真と私達」
「あぁ」
 朔は納得した顔だ。
「場所はまだ決まってないけど、どう?」
「いいよ」
「じゃあ決まりね」
 友達とお出かけ。実は一年の時はバイトばかりでほとんどした事がない。楽しみ。
 私は空になったお弁当箱を袋に入れた。
 中間テストの結果は、1位佐伯朔 2位佐藤遥――6位田崎由乃――8位夏川拓真――――31位 橋口葵 と、無事に何事もなく終えたのだった。
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