星降る夜に、あの日のキスをもう一度
いつの人生でもそうだった。
「雨上がりの晴れた空と星空が好きなんです。なにものにも縛られない自由な感じがするから――」
形は違っても同じものがそこにある。そのことにどれだけ慰められたか分からない。
「アンジェラ?」
小さく呼ばれて振り向くとコンラッドが身を寄せてきたので、手のひらで唇を受け止める。
「ダメですよ、旦那様」
「なぜ?」
かすれた声で問われ、アンジェラは力なく微笑んだ。本心ではないことに気づかれているのだと思い、それでも微かに首を振る。
コンラッドはそんなアンジェラの手を取り、唇を止めた手のひらにゆっくりとキスをした。その感触に、全身に電流が走ったように感じる。
「旦、那様……」
「名前を」
手のひらの中でささやかれ、アンジェラが「コンラッド」と呼び直すと、彼はようやく少しだけ顔を上げ、見上げるようにじっとアンジェラを見つめた。
「ねえ、アンジェラ。昔から聞いてみたいことがあったんだ」
低い声は囁きに近いのに、アンジェラの耳朶を甘く打つ。
「あの日、貴女が私に言ったキラキラの思い出を教えて?」
教えてくれたら手をはなすという彼の言葉に、アンジェラは大きく息を吸ってゆっくりと吐き出した。思い出の話は、狼にキスをされた日の話だとすぐに気づく。
彼の唇が手首の内側に這い上がり、小さな電流がまたしても流れた。
「聞いても――んっ……つまらない、ですよ」
「それは聞いてみなくては分からない」
本気で振り払おうと思えばできないわけではない。肉体的な力では敵わなくても、身を守るすべは身に着けている。でもアンジェラはそうしたくはなかった。
(もしかしたら、最後の夜かも知れない)
早ければ、明日には彼らをイリスに帰せるのだ。だったら秘密の一つや二つ、土産話にしてもかまわないかもしれない。
「ずっと昔。学生の頃に恋をしたんです」
ぴくりとコンラッドが揺れ、アンジェラの手を掴んだままゆっくりと身を起こす。
「誰? 私の知っている人?」
「さあ。わたくしも知らない人ですから」