星降る夜に、あの日のキスをもう一度
ロビーにいた若い男性が妹を受け止め、信じられないと言った顔でアンジェラを見ていたことを覚えている。その男が誰だか分からないのに、なぜか彼なら大丈夫と懐かしさを感じ、自分がにっこり笑ったことも。
アンジェラが「ごめんね」と言った言葉は届かなかっただろうけど、最期に大切な妹を守れたことが満足だった。
「いつも世界が一変していたのに、ここでは違った。いえ、一変したと言えば一変したんですけど、たぶん、貴方がいたことで変わりました」
手のひらをコンラッドの頬にあて、伸びかけの髭の感触を楽しむ。
「すごく楽しい人生だったの」
「これが最後みたいに言わないでくれ」
アンジェラの手に自分の手を添えながら、まっすぐ射抜くようなコンラッドの目の奥をのぞき込む。
「コンラッド。わたくしは貴方が好きだわ。学生の頃とも、ヒィズルでのことも関係なく、今の貴方が好き」
(ああ、言ってしまった――)
抑えきれなかった気持ちは、言葉になって零れ落ちた。
ハッと息を飲んで口を開きかけるコンラッドの唇に、アンジェラは人差し指をあてる。
「わたくしを追わないでいてくれてよかったの。メロディの父親である貴方を、わたくしは尊敬しているし、好きになったの」
「それはアンジェラの、スミレをまねたに過ぎない」
「それでも。いいえ、それならなお嬉しい。わたくしを認めてくれてありがとう。可愛いメロディに会えて、本当にうれしかったわ」
半日だけママと呼ばれ、くすぐったくて楽しかった。
「アンジェラ。どこにもいかないでほしい。このまま私と生きてくれないか」
込み上げる幸せに、アンジェラは抑えても口元に笑みが浮かんだ。それでも首を振って見せる。
「わたくしはこのままエドガーと一緒に行くつもり。あの子を守って、きちんとイリスに帰したい」
「なら私も残る」
「いいえ。貴方はメロディを連れて帰らなければ。守るべきものがたくさんあるでしょう?」
「一番守りたいのはアンジェラだ」
アンジェラは頷いて「わかってる」と囁いた。
「でもね、コンラッド。もしわたくしを愛してるなら、私の望みを叶えて?」
わざと愛してるなんて言葉を使った。好意以上の言葉に彼が身を引くと思ったから。けれどコンラッドは呆れたように目を上に上げて、わざとらしくため息を吐いた。
「そんな言い方は卑怯だ。私がアンジェラを愛していないわけがないし、貴女が望むことはすべて叶えたい。でもこれだけは受け入れられない!」