星降る夜に、あの日のキスをもう一度

 同じ早期卒業でもずいぶんと状況が違い、とても幸せそうだったかつての旧友の顔が思い浮かぶ。

「ドルー……?」

 可哀想なくらいショックを受けている姿に、アンジェラは怪訝な顔になった。

「コンラッド?」

「じゃあ私はあの時、あの洞窟で……貴女を抱いては」

「いません! なんてことを言うんですか。泣きますよ、本当に」

 いくら年齢を重ねたとはいえ、羞恥心まで捨ててはいないのだ。しかも性的なことなど無縁過ぎてお手上げ過ぎる。

「自慢じゃありませんが、これまで恋人がいたこともないんですよ。もう二度と言わないでください。コンラッドの意地悪!」

 混乱しすぎて、心が十代に戻ってしまったのかもしれない。
 あまりにも子供じみた発言になってしまったことにさらに落ち込んだ。

 それでも、同じように落ち込んでしまったコンラッドの姿に、少しだけ落ち着きを取り戻す。よーく思い出してみれば、洞窟での彼は毒草で高熱を出していたのだ。

「旦那様? 狼はあの時熱を出してたんですから、何か夢を見ていたんですよ」

 キスの後死んだように気を失っていたのだから、色々幻覚を見ていたのだろう。アンジェラが聞いてはいけないような、生々しい夢だったみたいだけど。

「……んですか?」

「なんですか?」

 その姿がまるで小さい子どものようで、アンジェラはつい微笑んでしまう。何かとんでもない夢を見ていたとしても、もう責める気はない(ただし、もう二度と口にしなければ)。
 なのに、

「でもキスはしたんですか? 情熱的で素敵なキスだったって、言いましたよね」

 なぜそこを覚えているんですか。

「アンジェラ?」

「~~~っ、キスをしたのはスミレです! ――スミレ、だから……」

 ――そうだ。
 何度も名前を呼ばれて、情熱的なキスをされたのはスミレだ。

 急に、冷水を浴びせられたかのように心の中が冷えていく。あれはアンジェラではないのだから、恥ずかしがる必要もない。あれは架空の女じゃないか。
 狼がコンラッドと同一人物であっても、スミレはアンジェラよりもずっと年上の女だ。

「もういいでしょう? 早く買い物を済ませて帰らないと日が暮れてしまいます」

 そう言って明らかに距離をとったアンジェラに、コンラッドは何か言いかけたけれど黙って頷いた。
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