追放された侯爵令嬢の幸せと、彼女を捨てた者たちの末路

第06話 王太子の宣言

 正当な判断だ。
 王国の安定のためでもあり、そして政敵の排除。これが私にとっての最善の選択だ。
 何度、自分にそう言い聞かせただろうか。
 大広間は静まり返っており、私は玉座の一段下、王太子としての定位置に座していた。
 その視界の先には私の()()()()()()女性であり、跪くセレスティア・アルセインの姿。
 あれほど堂々としていた女が、今はただ、沈黙の中でその身を晒している。
 だが、その背筋は折れていない。
 唇を噛み、目を伏せ、それでも誇りを捨てていないその姿が――、腹立たしかった。

(どうして、お前はいつでもそうなんだ?)

 思わず、そんな事を考えてしまった。
 正しさを振りかざし、理屈で人を縛り、何一つ私に甘えなかった。
 政務では頼れるが、心は通じない。所詮私は、お前のただの政治的な【駒】だったのか?
 ふと、視線が横へと流れる。
 隣にはエリスがいた。柔らかく微笑み、すべてを理解してくれている顔。何も言わず、ただ私を信じてくれる――そう思わせてくれる存在。
 セレスティアと違って、彼女は私を否定しない。

(……そうだ。これでいい。これが正しい)

 自分に言い聞かせるように、口を開いた。

「セレスティア・アルセイン。王命により、貴女との婚約を――破棄する」

 広間にざわめきが走った。

 当然だ――私はずっと貴女を王妃として迎える予定だった。
 有力貴族の娘であり、政務にも通じ、民からの信望も厚かった。
 だが、そのすべてが、今は――私にとっては、重荷でしかない。
 もはやこの女は必要ない存在だ。

「貴女は、王家に仇なした罪人として、爵位と名誉を剥奪される」

 私は続ける。
 口にする言葉の一つ一つが、心に杭のように刺さっていく。なのに、言葉は止まらなかった。止める理由がわからない。

「そして、国外追放を命ずる。二度と、この地に足を踏み入れるな。」

 その言葉を聞いても、誰も異を唱えない。誰も何も言わない。
 セレスティアは、ただじっと、こちらを見つめていた。
 あの澄んだ青い瞳で、何も言わずに、ただ、見ていた。
 怒りでも、恨みでもなく。
 ただ、哀しげに。
 まるで、お前は何もわかっていないとでも言いたげに。

「……っ」

 その視線に、思わず目を逸らす。
 逃げたのだ。彼女の瞳から。自分の選択から。
 エリスがそっと袖を引き、小さく囁く。

「殿下……大丈夫です。皆、理解しています」

 理解? 誰が? 本当に、私自身が――理解しているのか?

 だが、もう引き返せない。
 ここで情けを見せれば、私は王太子としての威信を失う。
 この決断が【揺らぎ】だったと知られれば、王宮内の派閥争いは激化する。
 国が乱れる。民が苦しむ。
 それだけは、避けなければ。
 だから私は、最後にもう一度、宣告した。

「セレスティア・アルセイン。貴女は、もはやこの王国に――不要なんだ」

 それは、自分自身への言葉でもあった。

「……ふざけるな」

 その言葉を呟いていたなんて、私は気づかないまま。
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