今日はここまで、ここから一緒に〜君と作る未来〜
「シェア一位を死守できなかったらどうしよう。その不安で〝逃げ出した〟んじゃなくて、愛する会社を守るために、〝戦いに行ってた〟って、ちゃんとわたしには伝わってますから」
数秒の沈黙。
会議室の片隅で『今日はここまでライト』のモックが、静かに鎮座している。
「――ありがとうございます」
わたしが見た中で、
いちばん『人間らしい』表情で、快浬さんはそう言った。
「正直に言えば、戻ってきたとき、誰も歓迎してくれないんじゃないかと、少しだけ覚悟を決めていました」
「そんなこと、ないです」
「でも、今の〝お帰りなさい〟で、その覚悟は、ひとまず棚に上げることにします」
少しだけ冗談を混ぜられるくらいには、
彼の中の緊張も解け始めているようだった。
「これから、プランAとプランB、両方を本気で回していく日々になります」
「はい」
「しんどくなったら、〝ここまで〟って言ってください」
「その前に、快浬さんが〝ここまで〟って言わないときは、私が言います」
「〝人間版ここまでライト〟ですね」
「前にも、そんな話しましたよね」
ふたりの間に、
ほんの一瞬だけ、柔らかい沈黙が流れる。
——逃げたんじゃない。
ちゃんと、戻ってきた。
その事実だけで、
胸の奥の固くなっていた部分が、
すうっとほどけていく。
窓の外には、
まだ不安定なシェアグラフと、
厳しい競合の現実が広がっている。
それでも、
『ここにいない』ことへの怖さより、
『ここにいて、一緒に戦う』覚悟のほうが、
ずっと大きく感じられた。
会議室の隅で、テスト用のライトが、
ふわりと点いた気がした。
「――今日も、ここまでにしましょうか」
快浬さんのその一言に、わたしは笑ってうなずいた。
「はい。今日も、〝ここまで〟にしましょう」
まだ、戦いは続く。
けれど、逃げた物語ではなく、
『戻ってきてから』の物語が、
ここから始まるのだと、わたしは知っていた。