今日はここまで、ここから一緒に〜君と作る未来〜
その日の午後。
全社会議。
壇上には、社長と快浬さん。
スクリーンには、
大きくシェアグラフが映し出されている。
「ご覧の通り、わが社のキッチン事業は、長年の〝僅差の攻防〟から、ようやく〝頭ひとつ抜けた〟状態に入りつつあります」
社長の声は、いつも通り淡々としていたが、
その目には明らかな高揚があった。
「もちろん、ここで浮かれては足元をすくわれる。だが、今日くらいは――」
一拍置く。
「〝逃げたんじゃないか〟と言われた男を、〝また失敗するんじゃないか〟と言われた息子を、どうか少しだけ褒めてやってほしい」
会場に、どっと笑いが起きた。
笑いながらも、多くの視線が、
快浬さんに向けられる。
「……」
快浬さんは、一瞬だけ目を伏せてから、
マイクを受け取った。
「以前、僕が突然会社から姿を消したとき、〝逃げたんじゃないか〟という噂があったと聞きました」
会場のあちこちで、気まずそうな笑いが漏れる。
「正直に言えば、その噂を否定する自信は、当時の僕にはありませんでした」
ざわり、と空気が動く。
「シェア一位を一度取り返したからといって、すぐにまた抜かれるかもしれない。〝やっぱり暁は二位だ〟と、そう言われる未来が、容易に想像できたからです。だからこそ、〝もう一歩だけ進めるもの〟が欲しかった」
スクリーンが切り替わり、CMの一場面が映し出される。
「切り札は残しておいた方がいい。そこで、サッカー選手夫妻のCM起用は、その〝一手〟として用意したものでした」
短く、本編の一部が流れる。
ライトが点き、夫婦が笑い合うシーン。
「ですが、このCMがここまで多くの方に受け入れられたのは、僕一人の力ではありません」
快浬さんは、会場をゆっくりと見渡す。
「開発、商品企画、デザイン、営業、宣伝、製造。そして、ユーザーと一番近い現場の皆さんがいたからです」
視線が、ふっとある方向で止まった。