今日はここまで、ここから一緒に〜君と作る未来〜
「小春さん」
箱が開く。
リングは、決して派手ではないけれど、
指先にしっくりなじみそうなデザインだった。
「僕と、一緒に暮らしてください。これから先の〝ここまで〟を、ふたりで決めていける人でいてください」
それは、仕事の言葉よりも、
ずっと不器用で、まっすぐなプロポーズだった。
わたしは、しばらく何も言えずに、
ただリングを見つめていた。
浮かんでくるのは、
これまでのシーンばかりだ。
初めて『ここまでライト』の話を聞いた会議室。
『好き』と言われた夜。
サッカー選手夫妻に『夫婦みたい』と笑われたスタジオ。
同じキッチンで並んで立った休日。
どの瞬間にも、自分はいつも、
この人『ここからどうしよう』を考えていた。
「……ずるいです」
ようやく出てきた言葉は、あの日と同じだった。
「また、ずるいと言われてしまいましたね」
「だって、こんなの、断る人なんていないじゃないですか」
涙がこぼれそうになるのを、
慌てて笑いに変えながら。
「私も、快浬さんと一緒に、この図面の余白を埋めていきたいです」
「いい日も、悪い日も、〝一人じゃない〟〝いつもそばに居る〟って、ちゃんと一緒に決められる人でいたい」
視界がにじむのを、無理やりこらえる。
「だから――」
わたしは、リングケースにそっと手を伸ばした。
「はい、喜んで」
その一言で、快浬さんの表情が、ふっとほどける。
「それ、営業部の返事ですよね」
「だって暁の人ですから」
ふたりの間に、小さな笑いが生まれる。
快浬さんは、そっとリングを取り出し、
わたしの左手を取った。
「……震えてますね」
「幸せだからです」
「じゃあ、その幸せと共に、これからも一緒にお願いします」
指にはめられたリングは、
不思議なほどしっくりきた。
見慣れた自分の手の一部が、少しだけ、
新しくなったみたいだった。