今日はここまで、ここから一緒に〜君と作る未来〜
ある夜、
残業で静まり返ったフロアで、
わたしは自席に積み上げられた資料を前に、
頭を抱えていた。
「コンセプトが、あと一歩、言葉にならない……」
ターゲットは、
共働きの三十代後半から四十代前半。
子どもがいる世帯。
忙しいけれど、
食卓だけは大事にしたいと願う人たち。
ただ〝時短〟や〝収納力〟をうたうだけでは、
もう誰の心にも響かない。
競合他社も、
似たようなメッセージを叫んでいる。
暁キッチンだけの〝約束〟とは、何だろう。
デスクの端には、
過去のユーザーインタビューで聞いた言葉がびっしりと並んだ付箋が貼られている。
『キッチンにいる時間だけは、仕事の顔を忘れたい』
『子どもが「今日のごはん、いい匂い」って言ってくれると、救われる』
『片づけが終わったとき、シンクがピカッとしていると、それだけで気持ちが整う』
わたしは、ふと自分の幼い頃の記憶を思い出した。
共働きだった母が、夜遅くに帰ってきて、
エプロンをぎゅっと結びながら『ただいま』と言うあの姿。
疲れているはずなのに、
キッチンに立つと、少しだけ表情が柔らかくなる。
煮物の香り。
フライパンから立ちのぼる油と醤油の匂い。
ダイニングテーブルに湯気のたった味噌汁が並び、
家の中の空気が温かく満たされていく瞬間。
キッチンは、
ただの〝作業場〟じゃなかった。
誰かの一日をやさしく終わらせる、
ちいさな舞台だった。
「……舞台、……ステージ」
わたしは、突然立ち上がると、
白紙のメモ帳に太い文字を書きなぐった。