余所者-よそもの-【 2 】
60話:導火線
それは、一日の終わり。
AnBarの看板を片付けていたときだった。
人通りの少ない路地の奥から、ばたばたと足音が響いてくる。
誰かがこちらに向かって猛スピードで走ってきている。
思わず目をやると、アオイだった。
彼女は「はぁっ、はぁっ、」と激しく肩で息をしながら、私の目の前で足を止めた。
そして、呼吸も整わないうちに私の両肩をガッと掴み、今にも泣き出しそうな顔を寄せてきた。
「来て、ない?」
その顔を見た瞬間、心臓が冷たくざわついた。
嫌な予感がした。
「誰が……?」
恐る恐る尋ねた。
「ねぇさん……」
言葉が途切れる。
アオイは、がくりと顔を伏せた。
私は生唾を飲み込んだ。
一度何かを言おうとして、唇をぐっと噛んで。
ただ、事実だけを返すことにした。
「来てないよ」
「………」
「………」
「……じゃあ、いい」
あからさまに落胆して、きつく掴んでいた肩の手をだらんと放したアオイ。
背を向けようとする彼女に、「待って」と声を掛けた。