余所者-よそもの-【 2 】
「あのAnBarとかいう場所は、そんなにもカナコさんにとって大切ですか?」
大切……大切、か。
考えるより先に浮かんだのは、カウンターでお酒を作るサンコンの穏やかな横顔。
それから、潤の豪快な笑い声、バンのいたずらっぽい生意気な顔。
そして『かぁこ』と呼ぶユキの姿。
なくしたくない。
なくすのが、怖い。
私のささやかな日常。
「……だったら、誰がその居場所をカナコさんに与えたのか。一度よく考えてみてください」
ハッとして。私はしゃがみ込む野間を見下ろした。
膝に肘をついた野間の右腕に、禍々しくとぐろを巻く黒い龍の刺青。
蛇を丸飲みする龍の顔が、こちらを睨みつけている気がした。
「AnBarに、何かする気?」
「さぁ。カナコさん次第じゃないっすか?」
手にじっとりと湧いた嫌な汗を拭うように、服の袖を握りしめた。
野間はその場に静かに立ち上がる。
「脅したいわけじゃないんすよ。今日はただ、紫藤さんに謝る機会をあげてほしい」
「………」
「僕は強引が嫌いだ。カナコさんの足で、カナコさんの意志で、着いてきてください」
やっぱり酷い男だと思った。
だって『強引が嫌い』なんじゃなくて、強引に見えないやり方が得意なだけだ。
野間は私の逃げ道を塞いでいく。
この人だって、多夜と大差ない。
……何を考えてるか、わかったもんじゃない。