余所者-よそもの-【 2 】


潤はその丸い大きな黒目を限界まで見開くと。
すぐに駆け寄ってきて、私のすぐ傍に勢いよくしゃがみ込んだ。

「どうした!?……何があった?」

焦ったように声を掛けてから、やがて更衣室を見渡す。


床には散らばったガラス片と、擦れた赤く鮮やかな血痕。

すぐに私へと視線が戻ってくると、止まらない鼻血と、そこからぽとん、と血が落ちて汚れた私の胸元。
そして掴まれてヨレヨレになり、はだけたシャツの襟ぐりまで、順番に目を這わせていった。

潤はこの一瞬の間。
視線を辿るたびに、その表情に困惑と苛立ちが混じっていった。


「何があったか、自分で言える?」

表情とは裏腹に、優しい声でそう尋ねる潤。
スラックスの後ろポケットから取り出した、アイロンのかかった高級そうなハンカチを躊躇なく私の鼻にあてがった。

私はなんて答えればいいのか迷って、ただ瞳をグラグラ揺らしていると、ふいに潤の手が首筋に重なる。


「カナコちゃん、もしかして熱ある?」

コクリ、と頷けば、潤は私の手をとって、ハンカチを持つ自分の手とそっと入れ替えた。


潤は身体の向きを変え、私に背中を向けて「乗って」と促す。

次いで「二階で休もう」なんて言いだすから、背中に乗り込むことができない。


「……なんだ?」

いつまで経っても動かない私を不思議そうに振り返ってきた潤に、「二階は使えないんです」と伝えると、訝し気になってこちらを見たあとに『もういい』と言わんばかりに立ち上がった。


「……あ、潤さん、待って!」

呼び止める声も虚しく。
潤は単身、二階へ。

更衣室の奥、すぐそこにかかる階段を上がって行ってしまった。

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