愛するあなたを殺させないため、死に戻った私はこの恋を捨てると決めた
悪戯っぽい口調で耳打ちして、ロジェリオがエリシアの胸元を指差す。ついでとばかりに耳元に軽く口づけられて、思わず声が漏れそうになる。
エリシアの頬が赤くなったのを楽しげに見つめ、ロジェリオは馬車に乗り込んだ。熱くなった頬を手で扇ぎながら、エリシアは馬車が門を出て見えなくなるまでじっと見送った。
その後自室で本を読んでいたエリシアは、やけに外が騒がしいことに気づいて窓の外に目を向けた。
今日は心地よい風が吹いているので、窓を開け放していたのだ。風に乗って、ざわざわとした人の声が流れてくる。その声はどこか不穏な空気をはらんでいた。
「何か、あったのかしら」
思わずつぶやくと、侍女のダナも窓の外をのぞきこむ。
「本当ですね。こんなに騒がしいことなんて、めったにないのに」
「ねぇ、様子を見てきてくれない?」
「そうですね、なんだか気になりますもの。見に行ってきますね」
そう言ってダナが部屋を出て行く。見てきてほしいと頼んだものの、エリシアも後を追うことにした。部屋にいてもすることがないし、自宅の近くで何か騒ぎが起きているのは気になる。
玄関を出たところで、戻ってきたダナと出会った。どうやらザカリアスも様子を見に行っていたようで、彼も一緒だ。執事とは目を合わせないようにしながら、エリシアはダナの方を見る。
「どうだった? 何があったのか、分かった?」
ダナは、心配そうに眉尻を下げた顔でうなずく。
「えぇ、馬車の事故のようです。近くに小さな花屋があるでしょう。あちらで働いている少年が、急いでいて道に飛び出したんですって。それを避けようとした馬車が転倒して、怪我人がでているみたいです。詳しい怪我の状況は分からなかったんですけど……」