愛するあなたを殺させないため、死に戻った私はこの恋を捨てると決めた
もう一人は中年の男性で、服装から馬車の御者であることが分かる。こちらは顔を打ちつけたらしく、鼻血を止めるために両手で顔を覆っている。更に足を捻ったようで、立ち上がるのは辛そうだ。
ザカリアスの報告を受けて父親もやってきて、怪我人の手当てをするよう指示を出す。エリシアは邪魔にならないよう壁際へ控えていることにした。
手当てを受ける様子を見守っていると、御者の男性が懸命に何かを訴えているのが目に入った。何を言っているのだろうと思わず凝視したエリシアは、その顔に見覚えがあることに気づく。
彼は確か、アルベルダ公爵家の御者ではなかったか――。
鼓動が嫌な速さで打ち始めるのを感じつつ、エリシアは御者の方へと足を進める。手当てをするメイドに、彼は必死に声をかけていた。
「……ロジェリオ様は、ご無事なのか? まだ馬車に取り残されているのでは……」
「えぇと、怪我人はお二人だけだと聞きましたが……」
「そんなはずない、馬車には確かにロジェリオ様が乗っていたはずだ。今すぐ戻って確認させてくれ」
「でも」
今にも立ち上がりそうな御者を、メイドが困った様子で押しとどめている。エリシアは御者に声をかけるため、震える唇を開いた。
「あの――」
「もう一人、怪我人が……!」
エリシアが声を発するのと同時に、大きな声と共に数人の男性が駆け込んできた。どうやら彼らは、怪我人をここまで抱えてきたようだ。
ハッとしてそちらを見たエリシアは、息をのんだ。
そこにいたのは、頭から血を流してぐったりと目を閉じるロジェリオの姿だった。その瞬間、エリシアは悲鳴をあげた。
「……っロジェリオ!! いやぁぁぁっ!」