愛するあなたを殺させないため、死に戻った私はこの恋を捨てると決めた

忍び寄る悪意

 愛する人を再び失うかもしれないという恐怖で、まともに息ができない。喘ぐような呼吸を繰り返していると、ロジェリオの目蓋が小さく震えた。

「……っ、シア」

 ほとんど吐息だけの声で名前を呼ばれて、エリシアはハッとする。握りしめていた手も、ぎゅっと握り返され、エリシアは息をのんだ。

「リオ」

「大丈夫……だ、俺は、ここにいる」

 震える声で呼びかけると、ロジェリオはエリシアの手を自らの胸へと導く。手のひらに鼓動を感じて、思わず安堵の息が漏れた。

 ロジェリオは身体を起こそうとするものの、あちこちが痛むのか小さく呻く。エリシアは慌てて彼の身体を押しとどめた。

「動かないで。頭から血が出ているの……」

「あぁ、窓ガラスの破片で切ったのかもしれない」

 話しているうちに、声にも張りが戻ってくる。今すぐ命にかかわる状態ではないのだろうと、エリシアも少し肩の力を抜く。

 その時、エリシアのそばに執事が近づいてきた。

「エリシアお嬢様、公爵令息の手当てを」

「触らないで!」

 執事の手を、エリシアは勢いよく振り払う。あまりの激しさに、周囲の人々も驚いたように一瞬しんと静まり返った。エリシアは、慌てて理由を説明しようと口を開く。

「……っ、頭を打っているかもしれないし、額の傷は血がまだ止まっていないの。無理に動かすのはよくないわ」

「そう……ですね。失礼いたしました」

 ザカリアスはうなずいてあっさりと引き下がった。だけど、その顔はロジェリオが無事であることを忌々しく思っているように見える。

 絶対にロジェリオに触れさせてはならないと、エリシアはザカリアスに背を向けた。
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