愛するあなたを殺させないため、死に戻った私はこの恋を捨てると決めた
「かしこまりました。では、髪を結ってしまいましょう。今日は湿気が多いですから、髪はまとめた方がいいかもしれませんね」
 そう言ってダナは、エリシアの髪を器用に編み込んでいく。低い位置でまとめた髪には、ドレスの色に合わせた青いリボンを飾ってもらい、エリシアは鏡をのぞき込んだ。
「素敵。ありがとう、ダナ」
「とっても可愛らしいですよ、エリシアお嬢様」
 褒めてくれる侍女に再度礼を言って、エリシアは部屋を出た。ロジェリオと約束した時間は午後からだけど、厨房に顔を出してお茶菓子の確認をしておきたい。
 廊下を歩いていると、そばの扉が開いて弟のヴィクトルが出てきた。目が合うと、彼は少し驚いたような顔をして足を止める。
「……姉さん、珍しいね」
「え、なぁに?」
 ぼそりと口にした言葉の意味が分からず、エリシアは首をかしげた。ヴィクトルは、慌てたように口を開く。
「いや、あの……姉さんが髪を上げているのは、あまり見ないから」
「あぁ、そうね。今日は湿度が高いから、髪を下ろしていたら広がりそうでしょう。だから、ダナがまとめてくれたの。可愛いでしょう?」
「……そうだね」
 小さくうなずいて、ヴィクトルはそのまま黙ってしまう。昔はエリシアのそばから離れないほど甘えん坊だったのにと懐かしいことを思い出すが、彼ももう十八歳だ。いつまでも小さくて可愛い弟なわけがないかと思い直す。
 ヴィクトルは、正確にはエリシアの従弟だ。父親の弟の子で、彼が五歳の時に両親が事故で亡くなったため、エリシアの両親が引き取ったのだ。
 親を亡くして呆然自失だったヴィクトルは、食事もほとんど喉を通らず、夜中に何度もうなされて泣いていた。エリシアは姉としてそんな彼の面倒を見てやり、食事を食べさせたり一緒に眠ったりした。
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