愛するあなたを殺させないため、死に戻った私はこの恋を捨てると決めた
 ザカリアスは、病院への道中に通る川のそばが『事故現場』だと笑う。確かにそこは少し道が狭く、川に落ちれば無事では済まないだろう。

 乗っていた馬車をそこで川に落とし、近くに用意していた別の馬車に乗り換えてここまでやってきたらしい。人通りの少ない場所だから目撃者はないだろうし、壊れた馬車にはファリノス家の紋章が施されているから、エリシアは不幸な事故に遭ったと誰もが思うに違いない。

「どうせ捜索はすぐに終わる。それまでは、ここでおとなしくしていようね。少なくとも、あいつがエリシアを諦めるまでは油断できない」

 ロジェリオのことを口にするザカリアスの目は、暗く翳っている。青ざめた頬は、苛立ちか怒りのためか、ぴくぴくと震えていた。

「公爵家なんて身分をちらつかせて、おれからエリシアを奪ったんだ……。あんな男と婚約させられて、きっと怖かっただろう。あいつから逃げるためには、こうするしかなかった。だけど、エリシアが死んだことにしておけば、さすがのあいつだって諦めるに違いない。ここで、おれと一緒に新しい人生を始めよう」

 晴れやかな笑みを浮かべて、ザカリアスはエリシアの手を握る。親指の腹で手の甲を撫でられて、肌が粟立つほどの嫌悪感を覚えたエリシアは、思わずその手を跳ね除けた。

「触らないで……っ」

 振り払われた手を見つめたザカリアスは、ゆっくりと口角を上げる。そして、熱に浮かされたような目でエリシアを見つめた。

「可哀想に、エリシア。まだ、あの男を愛していると思い込まされたままなんだね。本当は、おれのことを愛しているはずなのに。あいつはエリシアを洗脳したんだよ。許せないよね」

「違う、私はロジェリオのことが好き……! あなたのことなんて、なんとも思ってない!」
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