愛するあなたを殺させないため、死に戻った私はこの恋を捨てると決めた

惨劇

「え……」
 信じられない発言にエリシアは目を見開くが、男は満面の笑みを浮かべたままだ。それが、どうしようもなく気持ち悪い。
「邪魔なそいつを、ようやく排除することができた。本当に、ここまで長かったよ」
 ロジェリオが亡くなり、未だ涙を流し続けるエリシアを前にして、目の前の男だけが上機嫌だ。よく知っているはずのその顔が、別人のように思える。
 男は笑顔を浮かべ、うずくまるエリシアに手を差し出した。
「さぁおいで、エリシア。ここを出て、二人だけで暮らそう。誰も追ってこないように対策はしてあるから、安心して」
「や……嫌……」
 歌うような男の言葉の意味も分からないし、差し出された手を取る気にもならない。
 彼はエリシアの名を呼び捨てにしたことなど、なかったのに。まるで恋人を呼ぶようなその声が、いつもと違う口調が、ぞっとするほど不快だ。
 首を横に振るエリシアを見て、男は小さく肩をすくめた。
「大丈夫、もう怖くないよ。そいつは死んだ。エリシアは自由になれたんだよ」
「どういうこと……」
 意味が分からず呆然とつぶやくエリシアに、男はにこやかに笑う。そして、恐ろしいことを口にした。
「カップに毒を仕込んでおいたんだ。即効性だとは聞いていたけど、こんなにすぐに死ぬとは思わなかったな。もっと苦しめばよかったのに」
 薄く笑って、男は動かないロジェリオを見下ろす。その視線は、凍りつきそうなほどに冷たい。
「どう、して……どうして、あなたがそんなこと……」
 ロジェリオの手を握りしめたまま、エリシアは震える声で尋ねた。エリシアの知る彼は、こんなことをする人ではなかった。人を殺めて笑っていられるような人ではなかったはずだ。
< 24 / 32 >

この作品をシェア

pagetop